矛盾ケヴァット

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【バンドリ】イニシャル・夢を撃ち抜く瞬間に!・White Afternoonに息づく小説版Poppin'Party

バンドリ!アニメ3期がいよいよ間近となってきました。難解に作られながらも根気良く向き合えば美しいものに出会える1期、圧倒的な情報量で視聴者を飲み込みダイレクトに感情を揺さぶってくる2期、どちらも傑作と言える作品であり、そして3期はその集大成とまで明言されています。なんと、「キラキラドキドキ」についても紐解くつもりだそうですよ!(いや、それ明文化できる類の概念なのか……?)

ところで、バンドリーマーであれば当然にご存知でしょうし既読のこととは思いますが、Poppin'Party(以下、必要に応じてポピパとも略します)にはアニメ1期以前の原点が存在します。それが、Poppin'Partyの作詞を担当されている中村航先生により執筆された小説版BanG Dream!。ポピパメンバーの性格・風貌が今とは随分違っており、原点というよりは”原案”の方が実態に即してはいるでしょう。しかし、アニメ、漫画、ソシャゲと展開しているコンテンツでありながら表題の『夢を撃ち抜け!』を最も体現しているのは未だに最初期の小説版と言って良く、原点・原案でありながら現在のPoppin'Partyが目指すべき場所にもなっている作品です。この辺り、最初と最後を繋いで終わりのない形にするCiRCLINGの概念にも通ずるところがありますね。

そんな折、アニメ3期のOPEDとなる楽曲のタイトルが発表されました「イニシャル/夢を撃ち抜く瞬間に!」。もうこの時点で小説版読者としては色々なものを察するに余りあったのですが、試聴動画で1番の範囲内の歌詞が明らかになると、その確信は更に深まりました。この2曲は、小説版ポピパと、現ポピパを、結びつける曲だ、と。

 

イニシャル:小説版ポピパメンバーの性格で、現在のポピパメンバーの原点を歌った曲

まず、イニシャルの方から参りましょう。なお、1番の歌詞は発売前の現時点でもこのサンプラーCDの盤面から表記ごと読み取ることができます。

特に注目したいのはAメロの歌詞になります。

あの日わたしは 少女でも大人でもなく

混じりけのない眼差しで 夢だけ見てた

めらめらゆらゆらり 燃え滾る夜

勇気を噛み締めて 冒険(たび)に出たんだ

ところで、作詞担当の中村航先生は以前のインタビューにて、自分の歌詞はキャラクターワード(CW)で、実際に香澄が書いていると思ってほしいと語っていました。

この概念は大変応用が効きます。この記事では戸山香澄(CW. 中村航)として読んでほしいという意味合いでしたが、そこだけで終わらせずにいることもできるものです。たとえば、CWを現実の人物ではなくキャラクターがやったなら?

これを踏まえて上記のイニシャルAメロを考察すると、上2行は小説版戸山香澄が現在の戸山香澄の原点を歌ったものと受け取れます。アニメ1期以降のPoppin'Partyの物語は夢を夢見る香澄の衝動から始まったものであり、そのキラキラドキドキ・星の鼓動を目指す物語は今も続いています。その原点とも言える衝動を、小説版香澄の一歩引いて考えてしまう性格から振り返った……そんな2行だと読めます。つまり、戸山香澄(CW. 小説版戸山香澄)――何も、CWを書くのは現実の人間だけでなくても良いのです。

問題は下の2行であり、ここが非常に難解なのですが、キーは「冒険(たび)」という文言です。Poppin'Partyおいて「冒険(たび)」という言葉が大きな意味を持つのは小説版市ヶ谷有咲を置いて他にはいません。小説版において、市ヶ谷有咲は戸山香澄という”主人公”を手に入れたことによって、それまでのゲーム三昧引きこもりの日々を捨ててバンドという冒険に出ることを決意した人物です。もう1つ問題なのが「燃え滾る夜」の方なのですが、香澄の例をなぞるならば、これは現在の市ヶ谷有咲の原点になるはずです。そして、これも実はそれらしきものがあります。

有咲がキーボードを初めて手にした時、および「契約違反」の際に香澄と和解してキーボードを披露した時が、ともに夜なのです。どちらの夜が歌詞に該当するのかは断定しづらいのですが、キーボーディスト・市ヶ谷有咲の原点としてはどちらも成立し得ます*1。即ち、市ヶ谷有咲(CW. 小説版市ヶ谷有咲)というわけです。

 

残念ながら、他の3人については1番だけでは当該箇所がないため、2番以降に同様のCW概念を用いた歌詞が盛り込まれているものと考えざるを得ないのが現状ではあります。

また、明かされている部分では「何故に果てなき夜空に向かって 何度も同じ言葉を叫び続けるのか」が謎なので、こちらはアニメ3期内で解明されるものになるでしょうか。二重の虹ラストで連呼した「大好き!」の可能性も考えましたが、これを叫んだのは蔵の地下であるため、「果てなき夜空に向かって叫ぶ言葉」としては根拠が弱いと言わざるを得ません。

 

夢を撃ち抜く瞬間に!:CiRCLINGの完成、ひとつの時代の終わり

次に、夢を撃ち抜く瞬間に!ですが、こちらは明らかにYes! BanG_Dream!とSTAR BEATを意識した歌詞が多分に盛り込まれています。この2曲になぞらえた部分が現状公開されている1番だけでも多すぎるので正直本記事だけで紹介しきるのは無理だと考え、個別に指摘するのはこの際諦めますが、重要なのはどこがどう一致しているかということよりも、よりにもよってYes! BanG_Dream!とSTAR BEATに繋げてきたということです。

まず、Yes! BanG_Dream!はPoppin'Partyの記念すべき1stシングルであり、小説版でも伝説のバンドRAZESが撃ち抜けなかった夢をポピパが撃ち抜いていく、象徴的な楽曲になっています。まさに原点と言っていい楽曲……のはずなのですが、現在のポピパメンバーは、Yes! BanG_Dream!を原点としていません。ああいえ、当然声優により構成されるリアルバンドのポピパメンバーにとっては原点に相違ありません。ただ、キャラクターとしてのアニメ1期以降の香澄ら5人にとっては、この曲はさほど意味を成す曲ではないのです。

一方のSTAR BEATですが、この曲は小説版でもアニメ1期でも、最後のメンバーである山吹沙綾が、諦めていたバンドという夢をもう一度掴み取ろうと踏み出す際に決定的な役割を果たす曲です。作曲者は媒体により違いますが、その歌詞は香澄の偽りない沙綾への思いを綴ったもので、それが沙綾に届くことで晴れてPoppin'Partyの5人が揃います。紛れもなく、どちらの媒体においてもPoppin'Partyの結成を象徴する曲です。アニメ2期においても、花園たえが幼馴染みの和奏レイとの間で迷った際に、自分自身が戸山香澄達とともに音を奏でた瞬間に「昨日までの日々にサヨナラする」ことで不可逆な変化をしていたことを思い出したのは、香澄がたえにこの曲で思いを伝えたからでした。現在のポピパにとっての原点と言える曲は、どちらかといえばSTAR BEATの方なのです。

小説版ポピパにとっての原点であるYes! BanG_Dream!と、現在のポピパにとっての原点であるSTAR BEATをこれでもかと織り交ぜ、そして現在のポピパが未だに成し遂げていない夢を撃ち抜くという小説版からの終着点をまさにやろうとしている……。イニシャルの意味合いをも総合すると、夢を撃ち抜く瞬間に!は現在のポピパが夢を撃ち抜くことで、ポピパの全ての始まりである小説版とを繋ごうとしている曲、もう少しポピパらしい概念を混じえるならば、小説版からここまで続いたポピパの物語に1つのCiRCLINGを完成させる曲として作られているように思えます。アニメ3期という集大成に際して、何かの一区切りをつけてくる……そんな予感をひしひしと感じさせます。

 

ところで、僕はこの曲のサビを聴いた瞬間に、凄まじいデジャヴを感じました。島谷ひとみさんのYUME日和に、あまりにも似ている……。

以前にも、夏のドーン!が花ハ踊レヤいろはにほに似ていたり、アニバーサリー!がタマホームのCMジングルに聞こえるような指摘はされていましたが、これらは偶然似てしまったものでしょう。似ているのもせいぜい1~2フレーズですし、音楽には得てしてそういうことがあるものです。

しかし、夢を撃ち抜く瞬間に!とYUME日和はサビ全体が似通っている上に、楽曲の持つ背景まで極めて共通しているという事情があることから、制作陣が意図的に寄せたのではないか……と僕は考えています。何しろ、このYUME日和という名曲もまさにひとつの時代に区切りをつけた曲であるためです。

よもやこの日本に生きていてドラえもんを知らない方はいらっしゃらないかと思いますが、劇場版の1作である『ドラえもん のび太のワンニャン時空伝』のエンディングを飾ったのがこのYUME日和であることは知らない方もいるかもしれません。そしてこの『ワンニャン時空伝』は旧ドラえもん声優陣(通称:のぶ代ドラ)が出演する最後の劇場版でした。つまり、この楽曲はドラえもんという国民的アニメのひとつの時代の終わりを象徴する曲でもあります。

繰り返しますが、バンドリアニメ3期は集大成と銘打たれています。そのEDを飾る楽曲がYUME日和と極めて似ているのが、僕には偶然の一致であるとは到底思えません。

 

White Afternoon:小説版ポピパメンバーが、その後迎えた冬

ここまで、アニメ3期のOPED2曲について小説版を踏まえて考察してきましたが、正直、先の試聴動画を聴いた時点ではまだ小説版がそこまで密接に関連しているとは確信が持てませんでした。これを確信に変えたのが、つい最近配信されたWhite Afternoonです。歌詞は以下のリンクから全て参照できます。

サビの「淡い雪 舞い落ちる午後に ほっとするひととき」を始めとして、まさに寒い冬の午後に温かいものを飲んで心もポカポカ、午後の紅茶のCMらしい曲だと言えますね――などという単純な曲なはずはなく、この曲にもかなり凝った趣向が凝らされています。

キミの名前は”夢”だと知った

なんて一途な夢でしょう 真っ直ぐに続く道――

曲の入りからすぐの歌詞です。おっ、早速違和感バリバリのフレーズが出てきましたね! 現在のポピパは「キボウの道をジグザグ進もう!」「標識のない迷いの道も君となら行ける」といった、道が真っ直ぐでないことを肯定的に受け止められる集団へと成長しています。そのポピパがこの歌詞を紡ぐのははっきり言っておかしいのです。

一方で、小説版時代の初期楽曲である1000回潤んだ空*2では「そしたら昇る 一直線の光だ みんな色の光だ」という歌詞があります。真っ直ぐなのはどちらかと言えば現在のポピパではなく、小説版ポピパであると言えます。

ありのままでいいよってキミは手招いてた。

1番サビとラスサビに登場する印象的なフレーズですが、これも同曲の「それが君らしさであるんだよと」に対応します。White Afternoon、明らかに小説版ポピパの曲です。極めつけは以下の一節でしょう。

窓の外の雪景色に 足跡はまだ残っているね

なんてけなげな物語 忘れずに続いてる

ここまで来るとぼくにはけなげな物語=小説版BanG Dream!としか読めません。確かに、窓の外の雪景色を見て歌った曲ではあるでしょう。しかしそこに踏みしめた足跡は小説版で確かに生きた彼女達の足跡を示すものとしか思えないのです。

小説版において、彼女達の物語はPoppin'Partyの結成の後、秋の文化祭での演奏を前にしたところでエンディングを迎えました*3小説版に冬は来ていません。確かに彼女達の物語は一旦そこで幕を閉じたのかもしれませんが、彼女達の人生はその後も続いています。その、彼女達が5人で迎えた冬――それを歌っているのがWhite Afternoonではないかと思うのです。

3期のOPEDを飾るイニシャルおよび夢を撃ち抜く瞬間に!で、小説版ポピパと現在のポピパを合流させようと試みられていることは既に述べました。であれば、2019年12月というこのタイミングは、小説版Poppin'Partyの彼女達を歌える最後のチャンスかもしれない。そこで訪れた、午後の紅茶タイアップというチャンス。そんな運命と奇跡が混ざり合ったような過程で、White Afternoonは生まれたのではないでしょうか。

 

キラキラスター:???

であれば、気になるのは同時期に発表となったキラキラスターの存在です。

キラキラスターは、バンドリ!とナゾトキ街歩きゲームのコラボイベントである「探し出せ!ランダムスター!」のテーマ曲として制作された楽曲で、作詞はお馴染みの中村航先生です。現状、この楽曲を聴く手段は当該イベントに参加するしかないため、僕も全く聴いたことがありません。しかし、White Afternoonがこの時期にしかできない、小説版の彼女達の姿を描いたものであるとするならば、ほぼ同時に公開されたこの曲も同様に小説版ポピパを描いたものではないかと疑ってしまいます。

キラキラスターから連想される「きらきら星」は、アニメ1期3話ではかなり悪い意味で語り草ともなっている、非常に解釈の難しい場面に登場した楽曲ですが、小説版においてはギター初心者がコード進行を身につけるための楽曲として極めて重要な意味を持つ楽曲です。何より、ソシャゲ媒体であるバンドリ!ガールズバンドパーティ!では、こんな意味深なセリフが登場します。

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これはこの記事でも何度も持ち出している、最初と最後を繋ぐCiRCLINGの概念に極めて接近するものです。そのきらきら星を想起させてくるタイトルのキラキラスター……非常に気になる楽曲です。

午後の紅茶CMタイアップ楽曲であるWhite Afternoonに小説版の彼女達が過ごす冬という重要な仕掛けを入れてきた以上、リアルイベントタイアップ楽曲であるキラキラスターにも何かが仕込まれていると考える方が妥当でしょう。しかし、今現在はアクセス手段が極端に限られている……。

 

頼む、ブシロード! キラキラスターの試聴動画でも何でもいいから聴かせてくれ!!

*1:なお、後者の夜は作中の描写から厳密には夕方から夜の間という曖昧さがあるので、僕としては前者のキーボードを初めて手にした夜を推したいところです。

*2:この曲は作詞が中村航先生ではなく上松範康氏であることに注意すべきところですが……。

*3:アニメ1期以降の花咲川女子学園の文化祭は6月に開催されますが、小説版の花咲川高校の文化祭は秋に行われるものです。