矛盾ケヴァット

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【バンドリ】今後LOUDERは演奏されなくなる。Roseliaが更なる高みへと到達するために

アニメ3期が絶賛展開中のバンドリですが、先日行われたRoseliaのライブにおいて非常に残念な出来事があったようです。LOUDERの無音区間にて悪意ある観客が「家虎」を行い、それによってブシロード木谷高明社長が家虎根絶への決意表明を行う事態にまで発展しました。

僕はライブには全然行かないタイプのオタクですし、ライブ中のマナーについては門外漢であるため、これ以上の深入りは出来ません。しかしながら、この事件は思わぬ方向に、それも物語を捻じ曲げかねない形で波及しています。LOUDER披露前に、湊友希那役の相羽あいなさんが「この曲は私達にとって大切な曲でした」と過去形で発言をしたそうで、これによって今後のライブにおいてLOUDERが見納めになるのではないかという憶測が立っています。そこまでは良いのですが、LOUDERをやらなくなるのが家虎のせいだからという風潮が少なからず醸成されつつあるようです。

マナーの悪い厄介者のせいで感情的な論調が先行したところは当然あるでしょう。そこは斟酌できますが、これは大きな誤解を孕んでいます。確かに、今後RoseliaのライブにおいてLOUDERを演奏しなくなる可能性は高いと言えます。しかし、それは家虎を未然に防ぐための予防的措置などでは決してなく、LOUDERを演奏しなくなることには物語上の明白な文脈と必然性が存在しているのです。にもかかわらず、今回の一件でその綿密に計算されたストーリーテリングの妙を、善良なファンすらも素直に受け止められなくなる可能性が生まれてきてしまったことに、極めて強い危機感を抱いています。

ネット世論がセンセーショナルな方向へと傾くのは避けられず、きっと今後LOUDERを封印したことが家虎対策であるかのように吹聴し回る野次馬は後を絶たないでしょう。本記事は、そうした”雑音”を少しでも振り払える一助になればと思い、書き上げました。本記事を読まれた方にとってのLOUDERが、”雑音”のないクリアなものに戻ることを祈っています。

 

オリジナル曲でもあり、カバー曲でもあるLOUDER

そもそも、LOUDERはバンドリ!プロジェクトの数ある楽曲群の中においても極めて異質な存在です。元々、この曲は湊友希那の父が現役のバンドマンであった頃に書き上げた曲で、ふとしたきっかけから友希那がそのカセットテープ音源を発見し、その迸らんばかりの音楽への純粋な情熱に圧倒されます。父の無念を晴らそうと復讐心から音楽に打ち込んでいた友希那は、今の自分の不純さではこの曲を歌う資格は無いと考え、一度はLOUDERを歌うことを諦めてしまいました。しかし、幼馴染みの今井リサと、誰あろう友希那の父本人から、完成された音楽を追求する友希那への思いは父に負けず劣らずの純粋さであると諭されることにより、その懊悩をも歌に込めることでLOUDERはRoseliaの楽曲として蘇ることとなったのです。

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リズムゲームであるバンドリ!ガールズバンドパーティ!(以下、ガルパ)には、大きく分けてオリジナル曲とカバー曲という区分があります。カバー曲はアニメソング、J-POP、ボカロ曲といったいわゆる”版権もの”を指すわけですから、LOUDERはその区分に従えば紛れもなくオリジナル曲です。しかしながら、ユーザーにとってはオリジナル曲でも友希那たち作中の人物にとってはカバー曲なのです。上記のスクリーンショットはLOUDERの物語を描いた『思い繋ぐ、未完成な歌』で実際に友希那が発しているセリフであり、LOUDERが非常に特殊な立ち位置にあることを物語っていると言えます。

ちなみに、LOUDERと同じくオリジナル曲とカバー曲という二面性を持った楽曲は、他に3曲存在します。かつて夢を撃ち抜こうと活動していた伝説のロックバンド・RAZESが遺し、Poppin'Partyを結成へと導いたYes! BanG_Dream!Pastel*Palettesに触れたAfterglowの心境の変化を歌ったY.O.L.O!!!!!、そして『ホープフルセッション』イベントにおいて月島まりなのバンドが解散する際に作られ、友希那・麻弥・香澄・りみ・つぐみの5人の即席バンドで演奏したHOPEです。LOUDERも含めた4曲に共通しているものとして、そのどれもが元のバンドの思いを受け継いで歌う曲という意味合いを帯びています。

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特に、Y.O.L.O!!!!!がパスパレのために作られた楽曲でありながら、Afterglowのオリジナル曲として扱われている点には留意する必要があります。LOUDER、Yes! BanG_Dream!、HOPEの3曲は埋もれかけていたところを発掘された「幻の曲」という側面が強いのですが、パスパレ版Y.O.L.O!!!!!に限ってはライブでも披露した描写があるなど、作中でも「パスパレの曲」としてそれなりの知名度を誇っています。ですが、ガルパのゲームシステム上は、そして我々ガルパユーザーにとってのY.O.L.O!!!!!はやはり「Afterglowの曲」なのです*1。オリジナル曲としての在り方とカバー曲としての在り方が最も剥離した楽曲として、そしてその剥離が間違いなく意図的に演出されている楽曲として、LOUDERを考える上でも注目すべき存在です。

 

FWFで演奏するに相応しい楽曲はLOUDERなのか?

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全三部作であるノーブル・ローズも最終章を残すところとなり、いよいよFUTURE WORLD FES.(以下、FWF)の本番が間近となっています。来たる3月には遂に夢の舞台に立つRoseliaの姿が描かれるでしょうし、今から待ち遠しくてなりません。そして、父の無念を晴らすためにFWFを目指し続けた湊友希那が頂点で歌い上げるに相応しい楽曲は、やはり当然に父の思いを受け継いだLOUDERになるはずです。かつてまでならば

ここで先程のY.O.L.O!!!!!の議論が役に立ちます。LOUDERがメジャーデビュー前の、FWFにも認められるはずだった友希那の父の音楽であることは間違いない事実なのですが、どこまで行ってもやはり借り物は借り物です。どれだけLOUDERがFWFと強固に結びついた楽曲であるとしても、Roseliaの活動を通じて自らへの誇りと他者への尊重を積み上げてきた彼女らの集大成を飾るのが果たして“カバー曲”で良いのかには疑問の余地があります。

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もう一つ問題なのは、LOUDERが非常に初期の、まだ精神的に未熟だった頃のRoseliaがカバーした曲であるという点です。『ホープフルセッション』においてHOPEをカバーする際、スタジオミュージシャンとしての癖からついつい自分を押し殺して原曲を”なぞる”ような演奏をする大和麻弥を湊友希那が叱責するシーンがありました。一見何気ないシーンに見えますが、このイベントにおいてHOPEとLOUDERが重ねられて描かれていたことを意識すると、また違った味わいが生まれてきます。機械のように正確な演奏しか出来ないことに悩んだ氷川紗夜が、LOUDERをカバーする際も原曲の音源通りに演奏しなかったわけがないのです。

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現在でこそ友希那は他のメンバーの音にしっかりと耳を傾け、そして受け止められるリーダーへと成長しています。しかし、これは物語を通じて段階的に手にしていった強さであり、『思い繋ぐ、未完成な歌』という最初期の時点においては到底そんな余裕を持ち合わせてはいませんでした*2。当時から妥協なく音楽を追求する人物ではあったものの、それは主として技術面に対してのものであり、メンバーの個性にまではまだまだ目を向けられてはいなかったはずです。

この点を踏まえて想像してほしいのですが、当時の紗夜が音源通りにLOUDERを演奏するのを、今の友希那が聴いたらどうなるでしょうか? 『ホープフルセッション』で麻弥にそうしたように、紗夜にもダメ出しをした可能性は否定できないと思われます。昔の友希那であれば気づけなかった「個性を殺す演奏」に、今の友希那ならば気づくことができるのです*3

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無論、『思い繋ぐ、未完成な歌』はそういった未熟な部分さえも今の自分たちの音楽を形作るものだという趣旨のシナリオでしたし、LOUDERもその未熟さを肯定した上でカバーしたからこそ輝きを放っている楽曲です。しかし、逆に言えばLOUDERは初期Roseliaの未熟さの象徴ですらあります。であればこそ、精神的に円熟し気高き薔薇として咲き誇りつつある“今のRoselia”としてFWFで見せつける曲がLOUDERで良いのかは大きな疑問になってくるのです。

 

そしてLOUDESTへ

とはいえ、以上までの考察は別に今後リアルバンドのRoseliaがLOUDERを披露しなくなる理由には何一つとしてなっていません。LOUDERがもはや今のRoseliaにとってFWFで演奏するに相応しくないのであればFWFで演奏しなければ良いだけの話であり、別に他のライブではいくらでも演奏できるでしょう。次元を1つ跨いでいるリアルバンドならば尚更で、今まで通り気兼ねなく演奏し続ければ良いはずです。LOUDERが今後も存在し続ける楽曲ならばの話ですが

ここまで一つ本題を隠してきたことを謝罪しましょう。僕はLOUDERが封印されるよりも遥かに大きな変化が起こると考えています。LOUDERそのものが別の楽曲に“転生”する、そう予想しているのです。

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『ノーブル・ローズ -晦冥の導き手-』ラストでの、FWFに向けた湊友希那の決意のシーンは、それを示唆したものになっています。やはりLOUDERは父の思いを継いだ特別な意味を持つ曲ではありますが、FWFという父が見られなかった景色を見られる舞台に立つ以上、LOUDERのその先へと向かうような楽曲が必要なのです。それもLOUDERをきちんと受け継ぎ、その上で踏み越えるような楽曲が……。

ここからは些か憶測の領域になってくるのですが、僕は友希那の言う「どう歩くか」は、LOUDERを今のRoseliaの円熟に合わせてセルフアレンジしたものに変えてFWFに挑むのではないかと考えています。父の思いをきちんと受け継いでFWFの舞台に立つこと、そして今のRoseliaの姿を聴衆に刻みつけることを両立するには、これしかないのではないでしょうか。

そして、その際に曲名もLOUDESTに変わるのではないかとも予想されます。比較級のLOUDERを受け継ぎ超えたものとして、そして頂点に立つ確固たる意志の表れとして、LOUDERが生まれ変わる上でこれ以上相応しい単語は他に存在しないでしょう。曲名が変わることによって、父の思いを継いだ曲をカバー曲ではなくオリジナル曲にすることもできるのです。

 

ここまでの考察を踏まえて頂ければ、相羽あいなさんの「この曲は私達にとって大切な曲でした」という発言も、きちんとした物語上の意味が込められたものなのがお分かり頂けるかと思います。それが家虎という”雑音”によって不要な意味合いが与えられてしまったこと、そしておそらく最後のLOUDERだった先日の演奏に水が差されてしまったことが、本当に残念でなりません。

目前に迫ったノーブル・ローズ第三部にて、LOUDERを過去のものにする必然性があったことが確かな物語とともに提示されることになるでしょう。その時には、こうした”雑音”のような邪魔するものを振り落として、Roseliaの色が取り戻されていることを願ってやみません。

“雑音”を掻き消すことが出来るのは、よりラウドで淀みなく澄んだ音のみであると、そしてそれをRoselia自身が奏でてくれると、僕は固く信じています。

*1:そもそも、パスパレ版Y.O.L.O!!!!!はつい最近まで存在は知られていながら誰もそれを聴いたことがない伝説上の楽曲のようなものでした。「まんまるお山に彩りスペシャル」で披露されたことで、2年以上かけてようやく実体化したことになります。

*2:決定的に今のリーダー像になったのはやはり『Neo-Aspect』が契機です。

*3:とはいえ、紗夜の「自分の音」は一見無個性な正確すぎる演奏すらも個性だと受け止める形で進展していくとは思います。そのため、今の紗夜の正確な演奏を今の友希那が聴いても、「紗夜らしい音」と受け入れるでしょう。