矛盾ケヴァット

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【バンドリ】BanG Dream! 3rd Season 8~9話感想

恒例のネタバレ注意。今回はお気持ち表明ではありません。やったー!!

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オールキャスト大集合! その中で生まれた新たな関係性

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7話でRoseliaの問題が解決したことにより(6~7話の感想記事でも書いたように僕には到底そうは思えなかったのですが)、物語もひと段落。そこで、負傷した商店街長老たちの代打としてガルパメンバーが温泉に行くことになりました。は???

六花はともかく、レイヤとマスキングが爆速で馴染んでいるのはなかなかに意外でした。後にパスパレもクソ番組の収録が偶然同じ旅館だったことで合流。いっそ清々しいくらいに雑な導入で、28人が一堂に会するわちゃわちゃ回となりました。不参加のチュチュとパレオも声だけは出演しており、2期13話以来のオールキャスト総出演回でもあります。キャラクターの会話があちこちから聞こえてくる、脳味噌がシェイクされるかのような幸せ空間が再びそこに現出していました。

8話はその全てを拾い上げていくとキリがないくらい盛り沢山なので、特に注目すべき新たに構築された関係性について語りたいと思います。

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まずは市ヶ谷有咲と和奏レイ。2期10話において有咲の「あいつ、和奏レイ! ミュージックスクールで一緒だった!」というギャグとしか思えないセリフにより因縁めいたものは確かに芽生えていましたが、それが想像以上の形で回収されてくれたと言えます。当時直接に交流があったわけではないものの、小学生離れしたレイの歌の上手さを認め、遠巻きにその存在を見つめていた有咲の様子は既に語られていました。しかし、その一方でレイも有咲のことをきちんと認識していたのです。そればかりか、ミュージックスクールで演奏が上手にできればもらえる星のシールのため、誰よりも懸命に上手に演奏する「星のシールの子」として、ある種のリスペクトすら抱いていました。えっ、有咲の片思いじゃなくて両思いだったんじゃん!

和奏レイ改めレイヤの、人の恥ずかしい過去を思い出話として蒸し返す親戚のおばちゃんじみた振る舞いも面白いのですが、ここで大事なのはやはり素直になりきれない有咲の本性をレイヤが知っているという点にあるでしょう。この場面では横に今井リサもいるのですが、彼女も”幼馴染み”として、今の湊友希那がストイックに音楽の完成度を求めるの姿は後天的なものであり、本来は楽しそうに歌う人物であると知る者です*1。有咲にとってのレイヤも同様に、有咲のまっすぐな向上心に溢れた本来の姿を普段の斜に構えた態度よりも前に知っている人物です。そしてその姿は有咲にとっては基本的には隠しておきたいものであり(いやバレバレだけど)、今後の有咲にとっての”天敵”のような存在として、面白い関係性を見せてくれそうです。

また、レイヤの語った有咲の過去はポピパの結成、そして3期の展望を考える上でも非常に趣深いものでした。ポピパの始まりは香澄がランダムスターと出会ったことであり、香澄をランダムスターへと導いたのは当時音楽に真剣に取り組んでいた有咲だったわけです。そして今、BanG Dream!大会を誰よりも真剣に見据え、そしてそのための方策を練っているのも有咲であり、音楽に真剣に取り組む有咲が今度はポピパを武道館という”夢”へと導こうとしているのです。有咲の中で、始まりと終わりを繋ぐCiRCLINGが、今、完成しようとしています。

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もう1つは大和麻弥とマスキング。こちらも2期10話の時点で”キング”のドラムについて長文早口オタク語りする麻弥の姿が描かれており、その伏線はきちんと張られていたのですが、マスキングもパスパレ以前(スタジオミュージシャン時代)から大和麻弥サンに憧れていたという驚天動地の事実が発覚し、出会って4秒で舎弟化します。片思いかと思いきや両思いなの、有咲とレイヤの事例と一緒じゃねぇか! 畳み掛けんのやめろ!!

どちらも裏方出身のドラマーかつ、マスキングには可愛いもの好き設定もあるわけですから、惹かれ合うのは自然と言えば自然だったかもしれません。これでパレオとマスキングの間にパスパレという共通の話題が生まれましたし*2、多方面に可能性が膨らむ、そして当然この2人だけでも掘り下げ甲斐のある美味しい関係性だと言えます。ガルパの音ゲーの最中に「ウッス! 麻弥サンのドラムテクも最高ッス!」みたいなライブ掛け合いがされたら即座にライフがゼロまで削られる自信があります。

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そしてマスキングについては、ドラム組勢揃いでのドラマー会議により更に交流が広がりました。流石にドゥルルルッダーン!で会話することはなかったものの、ドラマーそれぞれがバンドにかける思いが語られ、どのバンドも「このメンバーでなければ……」という絆が芽生えていること、そしてその中でもバンドごとの個性や特色がよく出た非常に味わい深い内容でした。でも、松原花音さんはそろそろ「凄く狭い世界で生きてきた」の内訳を早く語って下さい

気になるのは、商店街組だらけのドラマー会議においてその話題が一切出なかったことでしょうか。幼稚舎から白雪に通わされたせいで商店街組と交流できてこなかった”佐藤ますき”にとって、その過去を取り戻せるかのような交流でもあっただけに、それが上手く焦らされた印象を受けます。今はまだその時ではないのかもしれませんが、いずれは商店街育ちのメンバーと(ドラマーでないはぐみやつぐみや六花も含めて)楽しく笑い合える”佐藤ますき”が見たいものです。ちなみに、マスキングパパらしき人物は『お休みの日は商店街へ』で実はガルパにも登場しています(姿は見せませんでしたが……)。

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『二重の虹』と2期を乗り越え、ポピパが掴み取った“両立”

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9話の肝は何と言ってもやはり有咲でしょう。BanG Dream!大会を制して武道館に行くため、あの手この手を尽くしてポピパの順位を押し上げていくことに成功しています。7話にて「ライブの数を増やさないと」とは言っていたのですが、まさか本当にライブの数で勝負するという力技で来るとは思いませんでしたね。しかし、考えてみれば初期のリアルバンドPoppin'Partyは高頻度でライブを行うことでプロモーションをしてきたわけですし、それをリスペクトした展開には違いありません。流石に3週間毎日ライブというのはパワフル極まりないと思いますが……。

毎日ライブを重ねる上で、有咲がまず気を配ったのは学業との両立でした。そう、まさに『二重の虹』で失敗したことです。あの時は有咲が問題を一人で抱え込んだこと、そして目先のテスト最終日ライブと自身の学業成績だけしか見えなくなっていたことが原因でポピパが空中分解する危機に陥りました*3。ところが、最早今の市ヶ谷有咲は、そしてポピパはあの当時とは違います。香澄とたえが期末テストを蔑ろにする気であることを察知して先回りで対策のプリントを用意するわけですが、そればかりかテスト期間が午前で終わることすらも大会への追い風として活用します。さらには、CiRCLEやdubで行ったRoseliaやRASとの対バンに負けても、RoseliaやRASのファンを数人でもポピパに引き込めたことを喜ぶという絶大な器量を見せつけてきます。まあ、ポピパは世界との一体化を目指すバンドなので、他のバンドのファンだって自分たちの一部ですからね!(狂気)

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極めつけは、BanG Dream!大会のために3週間ライブを毎日行っているにもかかわらず、突然舞い込んできた大会とは無関係のハロハピとの老人ホーム・幼稚園でのライブすらも予定に組み込んでいたことでしょう。上記画像からも分かるように、『二重の虹』時点での有咲ならば、それは「余計なもの」として切り捨てたに違いないものです。しかし、積極的に地元住民との交流を大会中に行うことで、そのライブで掴んだ新たなファンがGalaxyにも来てくれるようになっていきます。無論、武道館はポピパにとって目指すべき夢の舞台ですが、今のポピパは決してそれ”だけ”を見てはいません。BanG Dream!大会すらも「一つの大きな流れ」に組み込むことによって、却ってBanG Dream!大会にもプラスに作用させることに成功しています。

ここに、『二重の虹』で、そしてアニメ2期でポピパが苦しみ続けた”両立”というテーマに一つの答えが提示されました。双方を切り分けて並列に進めていくのではなく、双方を影響し合わせ好循環させることこそが、ポピパ的な”両立”の在り方だったのです。翻って、2期での失敗の原因も、主催ライブ、文化祭ライブ、RASでのライブというやりたいライブを絞りきれなかったことではなく、その3つのライブに好循環を生み出せなかったことにあると言えるのです。うーん、これぞCiRCLING!!

  

かつての有咲・友希那と重なるチュチュ、揺らぐ「調和」という存在意義

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ポピパが全てを好転させていく裏で、 RASでは深刻な不協和音が響き始めます。BanG Dream!大会で優勝し、自らの存在を誇示したいチュチュでしたが、目先のBanG Dream!大会”だけ”しか見えていない状態にあり、他メンバー、特にマスキングとの間に決定的な亀裂が生まれてしまいます。まさに『二重の虹』の有咲状態。より大きな流れの中にBanG Dream!大会を包括している今のポピパの姿を思えば、マスキングがチュチュの姿勢を指して言った「ちっちぇえな」は極めて象徴的です。

また、BanG Dream!大会の、そしてRASのためなら他の全てを捨てろとでも言わんばかりの態度はRoseliaに全てをかける覚悟はある?」から始まっていた1章の湊友希那と重なるところがあります。2話で友希那が呟いた「似てるのよ……」という言葉の真意も段々と輪郭が見えてきました。そしてチュチュがメンバーとちゃんと向き合えていないからこそバラバラになっていくのも『Neo-Aspect』の友希那、そして『二重の虹』でりみを倒れさせた有咲のようでもあります*4。現状のチュチュにとってバンドメンバーは自分の野望を果たすための契約相手でしかなく、そこに本当の絆を築けるかが大きな焦点になっていくでしょうか。

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シーン1つだけが立っていても、MVは成立しない

全体が上手く重なり合って、ようやく完成する。バンドも同じ

一方、4話でMV制作の思想を語った際に色濃く現れていましたが、その傍若無人な振る舞いとは裏腹に、チュチュがRASにおいて担当しているのは「調和」です。メンバー個々人の初期衝動を尊重し、時に暴走する六花やマスキングを軌道修正し、まとめ上げ、1つの音楽へと完成させる。それこそが楽器を演奏できないチュチュの戦う術であり、そのために全身全霊を尽くす姿が9話でも描かれています。即ち、チュチュが一方的に悪いわけではなく、チュチュの行う調和をレイヤやマスキングが尊重しきれていないという側面も間違いなくあるわけです。と来れば、この2人が、そして六花やパレオも、チュチュの調和を認めて尊重できるようになれば万事解決というわけですね。ラース!ラース!ラース!(クソオーディエンス)

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残念ながらそうではないところに、RASの抱える問題の難しさと、3期のシナリオの妙味があります。レイヤとマスキング、そして六花は、ポピパという「もっと強大な調和を可能にする存在」に深く触れているのです。複数のライブや学業を両立するために双方を好循環させるほどの力を身に着けた今のポピパは、チュチュのRAS内での存在意義を揺るがす”比較対象”としてチュチュの前に立ちはだかっています。チュチュが「最強」を、7話で紗夜に否定されたような”比較対象”を必要とする強さを求め続ける限り、世界と一体化しようとするほどの強大なスケールで調和を実現できるポピパには永遠に屈し続けるでしょう。

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この辺りの問題意識の置き場所までは考察できるのですが、そこからの着地点は現状もって見えてこないところです。とはいえ、マスキングを心配した六花、チュチュに追従するパレオが退席した後、1人ぽつんと残されたレイヤがキーパーソンになるのは9話の引き方からしても間違いないでしょう。そして、来る10話のサブタイトルは、「ボーカルは……星……」。レイヤが香澄のように自ずから輝く存在に駆け上がることが予感されます。その香澄とは8話にて、「ポピパにはもう迷惑をかけたくないんだ……」と零していたわけですが、この様子にはまるでかつての山吹沙綾のような印象を受けます。奇しくも、その山吹沙綾は同じ8話にて、「今はワガママも言っていいんだ、って」とポピパに変えてもらった自分のことを述懐しています。

レイヤがワガママを言う時、そして香澄のように周囲を照らして輝かんとする時に、RASに一体どんな化学反応が起こるのか。来週の10~11話を楽しみに待ちたいと思います。

 

前回、特に7話は純粋にシナリオとしての品質が低く、どうなるかと思いましたが、8~9話は凄まじい密度と起伏で、大変満足の仕上がりでした。求めていたものが帰ってきたという所感です。ただ、やはり7話で噴出した問題点である、湊友希那の『Neo-Aspect』で得た強さが揺らいでいることと、バトル要素が盛り上がりに欠けることが未だ解決を見ていないのは気にかかります。

湊友希那周りは7話を”解決編”として描いていたからにはそこからの軌道修正は諦めざるを得ないように思いますが、バトル要素は今のところ場外でしか進展していない状態にあり、もう少しステージ上での戦いが観たいというのが正直なところです。バンドリ!はキャラクターの人生を丹念に描くコンテンツなので、場外での様子は言うまでもなく重要ではありますが、同時に音楽コンテンツでもあるのですから、楽曲でその戦いの様子を表してほしいものです。7話紗夜さんのギター、9話パレオの鼻歌、そしてここまで獅子奮迅の活躍を見せながら未だに自身で作詞作曲したことがない有咲と、それぞれのバンドに新曲の制作フラグが立っていることは立っていますが……。

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ところで、僕の思い込みでさえなければ、予告で黒縁眼鏡をかけた「令王那」の姿も見えたんですけど、何ですかこれ!!?*5

*1:そしてつい最近、ガルパではノーブル・ローズが完結し、湊友希那がその本来の姿を取り戻してもいます。

*2:元々可愛いもの好き同士ではあったのですが、パスパレというパレオのストライクゾーンド真ん中にマスキングが寄ってきたのは想定外でした。

*3:ああ、いえ、かくいう僕も9話視聴前は「一人で抱え込んだこと」だけが原因だと思っていました。それに加えての「視野の狭さ」という側面は、9話視聴後に気付かされたものです。

*4:だったら7話の友希那はどうしてあんなことに……と思ってしましますが。

*5:RAiSeでも「令王那」が黒縁眼鏡を掛けていた様子はありません。僕は4話でマスキング加入のシーンがRAiSeと違うことを問題視したのですが、7話ではレイヤ加入の経緯がRAiSeと全く違う描写になっていましたし、アニメとRAiSeですり合わせる気はそもそもないようです。