矛盾ケヴァット

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【バンドリ】BanG Dream! 3rd Season 10~11話感想

3週間連続でこの分量の記事を上げるのは流石に疲れますが、やりきりました。ネタバレ注意。

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2期10~11話は文化祭ライブの失敗で沈んでしまったポピパの苦闘とそこからの再起を描きましたが、3期の同話数もまさしくRASが一つ壁を乗り越える姿を丹念に描く内容となっていました。友希那にプロデュースを断られてから正味1ヶ月で最初の結成まで漕ぎ着け、六花が加わって真の姿になってからも順風満帆だったRASにとっては、最初の挫折と克己の物語になります。3周年を迎えたガルパがモルフォニカ1章に湧いている裏で展開されたRAISE A SUILEN 1章とも言えるストーリーは期待以上の出色の出来になっていました。

……それにしても、この販売形態なので7話以降は奇数話のサブタイトルが偶数話の視聴前に目に入る仕様になっているのですが、CDを開封して「パレオはもういません」の文字列が飛び出してきた時は卒倒しそうになりました。この独特な販売形態の悪い部分の1つと言って良いかもしれません。ボーカルは……星……。ブシロードは……悪……。

 

「大人ぶった関係」を終わらせよう 

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9話で決定的に分裂したRAS。チュチュがパレオに決定的な断絶を突きつけたことにより、あれほどチュチュに付き従っていたパレオがまさかの雲隠れ。スタジオを飛び出していったマスキングは六花の引き止めによって戻ってきたものの、実家に帰らせていただきます状態のパレオを連れ戻さないことには元のRASには復元できないところまで拗れてしまいます。

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家は?

加茂川……

どこだよ?

千葉!

だから加茂川のどこだよ!?

知らない……

もうちょっとメンバーのこと考えろよ!!

実家に逃げ帰った嫁を連れ戻すにはその実家に突撃せねばならないわけですが、残念なことにチュチュはその実家の場所を知りません。上記に引用した会話は、パレオを連れ戻しに行く気満々のマスキングと、パレオのパーソナルな情報を知ろうともしなかったチュチュの意識の差が特に鮮明に現れていたと言えます。これまで、契約で結ばれた効率的でビジネスライクな繋がりがRASを今の地位へと押し上げてきたわけですが、ここに来てその無味乾燥な関係性の弱さが露呈した形と言えます。キズナというもっと強固な関係性で結ばれたポピパやRoseliaに相対するには、どうしてもこの契約的な繋がりを否定する必要があったのです。

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大人ぶった関係も、言われたことだけやってるボーカリストも終わり

それを真っ向から否定してきたのは、キズナを誰よりも求めたマスキングでもなく、ポピパのキズナを理解できる六花でもなく、むしろその契約的な関係にこれまで最も従順に振る舞ってきたレイヤでした。しかし、大人びた歌い方を否定されてきたレイヤが、RASの関係を「大人ぶった関係」として自分自身の振る舞いまで否定するからこそ、今のRASの在り方にNOを突きつける上で最高の説得力を帯びていました。レイヤという人物の人間的な成長が、RASというグループ全体の脱皮に寄与していく、これこそバンドリ!があらゆる媒体を通して貫き続けている人間ドラマの真骨頂です。

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レイヤにRASの在り方を否定させる流れだけでも白眉なのですが、更に素晴らしかったのはレイヤにこの強さを手に入れさせたのは2期を経たたえの後押しだった点にあります。たえがRASとの板挟みで苦しんだ末にポピパに戻ってこれたのは、香澄という存在が戻ってこれる場所を指し示す「目印」となってくれたからだと、そして、ボーカルはバンドにとっての「目印」になるべき存在なのだとレイヤに語ります。このたえの発言は、冷静に考えれば迷いの渦中にいる人間に「お前がRASを救え」と言っているに等しい、だいぶ突き放した態度でもあるのですが、2期を通して悩み続けたたえの経験とReturnsの歌詞が援用されることで、極めて自然に「レイにも、私たちにとっての香澄のような存在になってほしい」という思いが届くようになっています。この、ポピパが2期で紡ぎ上げた物語がそのままレイヤの変質の根拠にもなっていくという大河的なストーリーテリングには舌を巻きました。

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そしてたえが促した変化によって、大切な過去を拾い集めるだけだったレイヤが遂に、RASとの未来に手を伸ばせるようになりました。「ごめん、花ちゃん」と、たえとの会話を遮り、過去と決別したレイヤの姿は紛れもなく、香澄にSTAR BEATを奏でてもらったあの日のたえのように、昨日までの日々にサヨナラしていました。

 

 “暗闇”から、パレオという私を『もう一度』見つけ出してくれた

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一方、実家に里帰りした嫁ことパレオの方は、チュチュに見つけ出してもらう前の”暗闇”にも里帰りしていました。4話のマスキング、7話のレイヤの加入経緯がRAiSeとかなり異なっていたためアニメ3期とRAiSeで擦り合わせる気がそもそも無いのは分かっていたのですが*1黒縁眼鏡のガリ勉優等生という「鳰原令王那」の出で立ちはRAiSeにも無かったもので、かなりのインパクトがありました。僕はRAiSeを外伝的な漫画作品として非常に高く評価しているため、RASメンバーのルーツ周りの描写ではどうしてもアニメ3期はRAiSeに見劣りする印象を抱いてしまうのですが、「令王那」でいる時の死んだ目をした表情などはアニメ3期の方が詳細に鳰原令王那という人物の人となりを描写できていたと感じます。というかまあ、RAiSeの令王那、パスパレについて思いを馳せている時はだいぶイキイキしていましたし……。

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また、この点はやはり、パレオと令王那を見事に演じ分けた倉知玲鳳さんの功績も大きかったと言えます。パレオの常に周囲を燦々と照らすかのような明るい声については最早説明の必要もないとは思うのですが、これが令王那状態になると沼の底から這いずり出るかのような淀みきった声に一変します。「ちゆ」と対等な関係で楽しく接する「令王那」の頃もその声色のまま感情を表現し、そしてチュチュにパレオという名前を与えられた瞬間に、我々のよく知るパレオの声に一瞬で戻るなど、おおよそ一人二役とさえ言える難しいディレクションに完璧に応えてくれた演技でした。RAiSeによって知るところとなっていたパレオと令王那の二面性が、倉知玲鳳さんの演技によって想定していた以上のものに昇華していました*2。あっ、でもチュチュ様、令王那がパレオになった瞬間に若干引いてたんですね。そりゃそうか、さっきまで対等に接してた友人が突然従者ムーヴしだしたら誰だって引くよね……。

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かつての姿に戻ってしまった令王那に対してマスキングと六花は説得を試みますが、相手も頑固でなかなか奏功しません。しかし、そんな中、息を切らしながらパレオを迎えに来たチュチュ様が!! その姿を認めた瞬間、小銭を見つけたきり丸みたいな勢いで令王那はパレオへとキャラを戻し、見事元鞘へと戻ります。実家に帰ったかと思えばバカぁ! 寂しかったぁ!で解決してしまいました。えっ、バンドリ3期って昼メロだったの!?

このシーンは半分ギャグでもあるのですが、令王那がパレオになった経緯を思えば納得がいくものです。”暗闇”からパレオという私を見つけ出してくれたことでチュチュへの忠誠を誓ったパレオからすれば、パレオをRASへ連れ戻そうと駆けつけてくれたチュチュの姿はパレオという私を『もう一度』見つけ出してくれたものでしかありません。勇猛に夢を語っていたあの日とは違い、息も絶え絶えになった末に足をもつれさせるチュチュの姿は確かに不格好でしたが、それでもパレオという自分自身を獲得したあの日の再来として、そしてRASを始め直す理由として申し分のない根拠を持った主君の再来でした。

……とはいえ、これだけでは「チュチュとパレオの物語」として解決しただけでしかありません。あれっ、「RASの物語」としては弱いのでは?? と僕も初見時には感じたのですが、よくよく考えれば、このチュチュとパレオの再会はRASの5人で実現したものだと分かります。まず、チュチュの加茂川行きは前章で遂に強さを手にしたレイヤの導き無しには実現しませんでしたし、更には市と言える規模のある広い加茂川で、チュチュがパレオを見つけ出せたのは何故か? をきちんと考えなくてはなりません。

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答えは明白で、デス・ギャラクシー号が目印になったからです。パレオが逃げ込んだのは橋の先の小道。何の手掛かりもなしに捜索しているチュチュとレイヤが本来ならば素通りするはずの場所です。しかし、平時ならばあるはずのない、見間違うはずもないやたら目立つバイクがそこにはありました。マスキングと六花がパレオを探しに来たことが、きちんとチュチュとレイヤがそこに辿り着いてRASの5人を揃える理由にもなっていたのです。

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RASは、5人でRASやんか!

一見、マスキングと六花の説得は失敗してしまったように見えます。しかし、可愛くなりたかったパレオに対して可愛いの一点張りで攻めたマスキングの言葉は間違いなくパレオの心を揺さぶったはずで*3、その末に六花が切った啖呵は、紛れもなく今回の顛末を意味づけていました。「この5人でなくては……」というバンドとしてポピパに憧れていた朝日六花が行き着いたバンドは、まさしく5人の誰が欠けても成立し得ない形で大きな挫折を乗り越えることに成功しましたた

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『二重の虹』の有咲、そしてアニメ2期のたえを通して、ポピパとの出会いによってそれ以前の自分には戻れなくなったこと、それによって常にポピパのことを考えていることの2点が「ポピパらしさ」であると描かれてきました。今回RASが至った結論もまさしく同様のものであり、克明にRASの間にもキズナが築かれたことを意味します。これまでのビジネスライクな、大人ぶった関係を捨て、お互いのことをきちんと知っていくこと。3期の物語を経てRASが手にしたのは、そんなちっぽけな、けれどもいずれは世界へと憑依していける偉大な強さでもありました。

 

君が世界変えてくれたんだ Come into the world. Hell! and Hell?

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これまで演奏が出来ないことへのコンプレックスが分かりやすく示唆されていたチュチュでしたが、それを抱くに至った過去も遂に詳らかにされました。世界的なヴァイオリニストである母・珠手美羽*4の資金力と権力により作られた称賛を与えられ続け、プライドをズタズタに踏み躙られてきたという想像以上に壮絶なもの。RASメンバーを勧誘する時も各々の原始的な衝動を何より尊重していたチュチュが、本心からの称賛に飢えていたというのは抜群の説得力でした。いやあ、今回に関してはパレオもそうなのですが、やはりキャラクターのルーツが明かされるとその人物の行動原理の軸が見えてきて気持ちいいですね。お前も早く過去を明かせ松原花音

チュチュの過去が明かされたことで、2つの既存のRAS楽曲についても歌詞の全貌が見えてきました。1つは、章代にも拝借し、チュチュの心情を歌った曲と公言されているTakin' my Heart。今回の回想を見れば孤独の海の中惨めに消えたくないからという歌詞は鮮明にチュチュの忸怩たる思いを表現していますし、I hope my feelings reach you...! などは自分の思いに全く気づかない、気づこうともしない母親への、声なき声が形になっています。

もう一曲は、HELL! or HELL?。端的に要約すると「他人が作り出した地獄(HELL!)と、自分で切り開いていく地獄(HELL?)、どっちを選ぶ?」という歌詞なわけですが、他人の作り出した地獄(HELL!)が母親に偽りの称賛を用意された過去に、そして、自分で切り開いていく地獄(HELL?)がRASに相当します。少なくとも、チュチュにとっては。

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地獄だって構わない

さて、11話のクライマックスを彩ったBeautiful Birthdayですが、楽曲を作成したパレオの愛の重さ深さが伝わってくると同時に*5、HELL! or HELL?をきちんと理解した上で聴くと非常に趣深い歌詞になっていることが分かります。チュチュは他人の作り出した地獄(HELL!)を終わらせNEW WORLDを始めんとする人物なわけですが、他の4人にとってはチュチュの作り出した地獄(HELL!)こそがRASであり、しかもそれを肯定しています。一方、5人のキズナを確かめ合ってこれから自分達で切り開いていく地獄(HELL?)もRASであるという決意表明の歌でもあるのです。本楽曲はチュチュのバースデーソングになっていると同時にRAISE A SUILENという繋がり(バンド)のバースデーソングに、そして、HELL! or HELL?という問いかけに対して、HELL! にしてHELL?、それこそがRASなのだと、パレオを始めとした4人が強く答えを提示する、HELL! or HELL?へのアンサーソングでもあると解釈しました。

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世界は貴女を待ってた

また、Beautiful Birthdayは4人による自分のいた世界を壊してくれたチュチュへの感謝のメッセージであり、RASというNEW WORLDを作り上げてきたチュチュのこれまでへの報奨と祝福でもありました。これを”観客席”にいるチュチュに届けたのがまた素晴らしい演出だったと思います。音合わせなどでいつもふんぞり返ってメンバーを眺めているのと同じ椅子ではあるのですが、今回の4人はチュチュのコントロールを離れ、もてなすためだけに演奏しており、いつもの椅子は”玉座”ではなく”観客席”になっています。演奏が出来ない、指示も出来ない”観客席”は「珠手ちゆ」のメタファーであり、加茂川で令王那に戻ったパレオのように、この瞬間の彼女はただのちゆでしかありません。この巧みに計算された構図により、チュチュが築き上げたRASからのメッセージが、今の珠手ちゆに届くことによって、過去の珠手ちゆが報われるという美しいCiRCLINGが完成していました。

 

予選終了! 決着は武道館で!

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そして、3期を通して続けてきたBanG Dream!大会予選も遂に決着。1位はRoselia、そして2位は同着でRAISE A SUILENとPoppin'Party!! 3バンドご招待!!

え、ええー……と溜息をついたのが正直なところです。引き分けというのは勝負事において最もつまらない結末だと思いますし、上位2バンドが決勝出場という予選ルールを聞いた時になあなあで3バンド出場してしまうのが想像し得る限り最もつまらない展開だとさえ思っていました。最悪の想像が実現してしまったことに、幾ばくかの落胆を覚えます。

物語の流れ、特に6話の紗夜のセリフからもどのバンドもそれぞれに素晴らしいという落としどころになるのは分かるのですが、やはり”バトルもの”であるからには勝ち負けはきちんと尊重してほしいという思いがあり、その点でやや不安になってはきているところです。優劣をつけないことと勝敗をつけることは別であり、両立できるはずです。

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バトル面についてはこれまでステージではなく場外”だけ”で展開し続けてきたことも不満なのですが*6、その点に関連しては非常に嬉しい兆候がありました。風呂が苦手なチュチュも交えて、RASの5人で一緒に風呂に入るというささやかな願いを叶えたマスキング。そこで、湯船に浸かって5人で1から100まで数えたのです。一見RASがキズナを紡いだことを示す微笑ましいシーンに見えますが、RASとRoseliaのバトルを見据えるとこれは重要な伏線と見るべきものです。

結果的に武道館の前哨戦となった6話の対バンライブではEXPOSE ’Burn out!!!’を披露してRoseliaに辛勝しました。この楽曲はサビに入る前にCountdown 3, 2, 1という合いの手が入るわけですが、Roseliaにはこの曲を踏み越えるに相応しい楽曲が存在します。

カウントアップ重ねて旅路を刻め

"UNIONS" Road。『ノーブル・ローズ -晦冥の導き手-』にて、FWF出場を決めるコンテストまでの日数をカウントダウンしていたあこが、誰も知らない未来を踏みしめていくことを決意しカウントアップへとその姿勢を転換させたことを示す楽曲です。この楽曲があるからには、自分達を一度負かしたEXPOSE ’Burn out!!!’に対して、Roseliaはこう言えるのです。カウントダウンなんて私達はもう終えているわ、と。

しかし、旭湯の大浴場で100数えることで、RASもカウントアップできるバンドへと変貌するに至りましたEXPOSE ’Burn out!!!’のカウンターとしての"UNIONS" Road、それに対するクロスカウンターとしてのまだ見ぬ新曲。楽曲の歌詞を通して思いをぶつけ合う、そんな熱い対決が観られる予感が漂ってきたことを大変喜ばしく思います。

無論、7話のラストで紗夜が音に残そうとした新曲もあり、また、ポピパも未だ作詞作曲を経験していない有咲制作の新曲も用意されるでしょう。予選を通過したことで、武道館という夢は撃ち抜けることが決まったわけですが、夢を撃ち抜く瞬間に何が起こるのか、4/8を楽しみに待ちたいと思います。

*1:カシマミ版ポピパがそうであったように、原案を与えつつ作家には自由な脚色を許可した形だと思います。とはいえ、新人のはずのしいはらりゅう先生が執筆を重ねてここまで漫画家として覚醒してくるのは公式側としても予想外だっただろうとは思います。

*2:本来のスケジュールならRAiSeパレオ編はアニメ3期の放映後に月ブシ掲載となったはずですが、パレオ・令王那の二面性はアニメで先出しされても飲み込めなかった可能性があるため、ここは今の放映スケジュールになったことに救われた点かもしれません。

*3:4話の六花に対して「お前のギターもすげぇよ」と本来は技術論を褒められる人であり、そのマスキングが可愛いの一点張りをしたのは不器用ながらもきちんと相手の最も求める言葉を探った結果と解釈すべきです。

*4:表記はスタッフロールより。これまで不明だったチュチュの苗字も「珠手」であると判明しました。激安スーパーどころかとっても高貴そうな苗字です。

*5:9話のパレオの鼻歌はこの曲です。

*6:キャラクターの人生に本気で向き合うバンドリ!プロジェクトなので場外で展開していくこと自体は歓迎です。ただ、場外で紡いできた流れがステージ上で結実してこその音楽コンテンツのはずです。