矛盾ケヴァット

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MyGO!!!!!から入ってきた人のための!迷子にならないバンドリ&ガルパの案内図

えー、It's MyGO!!!!!10話が凄すぎたというか、言葉で通じ合いきれない関係を音楽で分かり合うという表現をこれ以上ないくらいの映像と感情の説得力でやって来て本当に脳汁ドバドバ出まくってしまいました。同時に、感想記事を書く(言葉で語る)のこれ野暮じゃない? という気持ちになってきたので、10話の感想記事はナシにします。多分言葉尽くしちゃダメだよこれ。11話の感想記事である程度触れるとは思いますけど。

代わりにと言っては何ですが、It's MyGO!!!!!からバンドリに入った人のためのバンドリ入門記事を今回は書くことにしました。「フン、おもしれーアニメ……けど今からバンドリ触るのもダルいんだよな……」とお考えのそこのアナタ! その考えはおそらく正しい。ほとんどバンドリが日常の一部のようになっている僕のような狂人はともかく、これから入る人間にとって、今のバンドリは少々大きすぎるものになってしまいました。まあその新たな入り口として打ち出したのがIt's MyGO!!!!!ではあるのですが、MyGO以前のバンドリを知っていただくのはかなり難しい状況にあるのもまた事実。というわけで、少しでもバンドリに興味を持ってくれた方に向けて、バンドリという広大なコンテンツで迷子にならないようにサポートするのが本記事の趣旨になります。特にガルパの方に重点を置いていますが、多くの新規ファンの方にとっての地図のような記事になれたら幸いです。

 

我ながら長いことバンドリというコンテンツに浸かっていると思うのですが、同時にバンドリというのはかなり他人に勧めづらいコンテンツだとも痛感しています。それは歴史の長さだとか演者の降板による哀しみの多さだとか色々あるのですが、まず一番の原因はプロジェクトの中心にいるPoppin'Partyが難解すぎることです。

いやまあ、楽しいんですよ。ポピパがキラキラしながらも難解に繰り出してくる概念を読み解いていく、その謎解きにも似た作業は。でも、それが万人に伝わるものではないのもまた事実。それに、今となっては(少なくとも僕にとっては)ポピパはほぼ解き明かされた存在となっており、その神秘性も薄らいできたと言えます。この謎解き要素はまさしく今、Ave Mujicaの方に譲ったと言って良く、新規の方がこの感覚を体験するには普通にAve Mujicaを追いかけるだけで事足りるのではないかと思います。ちなみにアニメ前のAve Mujicaの展開については、僕のTwitter(かっこえっくす)フォロワーのthzaqさんが詳細かつユーモラスにまとめて下さっています。力作なのでご一読下さい。

というわけで本記事ではそのポピパ特有の概念の種明かしを最初に行いましょう。そうすればポピパの、バンドリのあれやこれやをぐっと理解しやすくなるはずです。特に重要な三大概念、星の鼓動、キラキラドキドキ、CiRCLING。この3つをもう最初からサクッと掴んでしまいましょう。

 

星の鼓動とは、世界との一体化

キラキラ=ドキドキ、星の瞬きと自分自身の心臓の鼓動がリンクするようなその感覚。幼き日のキャンプで星の鼓動を感じたその瞬間、戸山香澄という1人の少女は宇宙と一つになりました。言ってしまえばそれこそが本当に星の鼓動だったのですが、アニメ1期を1話だけでも観た方ならば急に謎の言葉が出てきて宇宙猫みたいな顔になったかもしれません。そして戸山香澄は同じく1話で、ミルキィホームズGlitter*Greenのライブを観た瞬間にあの日感じた星の鼓動と同一のものを感じることになります。音楽は世界を一つにする――そんな音楽の理想とポテンシャルを表した概念が、まさに星の鼓動なのです。

本当に難解な概念なので即座に理解できなくても問題はありません。ただ、少しでも興味を持ったのならば、バンドリ関連のコンテンツに当たる前に、とりあえず鋼の錬金術師6巻を読んでみて下さい。イズミ師匠がエルリック兄弟に突きつけた課題、「一は全 全は一」こそが、紛れもなく星の鼓動の答えです。この世で最も分かりやすく星の鼓動を語った書籍だと声を大にして言えます*1音楽を通して世界と一体化する。それがポピパの根源的な理想であり、バンドリプロジェクトがこれまで目指してきたものです。けれどもMyGO!!!!!ではその理想が一旦解体され、一体化から「共感」へと、必ずしも「ひとつになる」ことを要求しなくなってきました。

ところで、アニメ1期で多くの視聴者を混乱に陥れたであろう「やりきったかい?」も星の鼓動に関連した言葉です。自分1人だけでキラキラを追い求めて突っ走っていた香澄は、やりきったかいおばさん都築詩船から「周りが見えていない」と嗜められます。ただ、そのキラキラドキドキな香澄の姿に感銘を受けたポピパの面々が香澄と一緒に歌うことで5人は一体化し、みんなという星の鼓動を感じられるようになって、オーナーを納得させる演奏をするに至ります。やりきったとは、全てを吐き出すことです。そして、全てを吐き出すほどに音楽をやりきれば、その存在は周囲と溶け合い、自他の区別がつかないトリップを体感できるのです。音楽には、そういう力がある。そういう音楽への全面的な崇拝に繋がるセリフが、「やりきったかい?」でした。作画のクオリティが何かと叩かれがちな本作ですが、音楽の中でポピパのみんなの存在だけが感じられて世界に溶け合う様子は、しっかりと映像的に表現されていました。

 

キラキラドキドキとは、何気ない日常の中の何かが始まる予感

世界との一体化という途方もない理想を掲げる星の鼓動が戸山香澄やポピパの目指すべきゴールなら、キラキラドキドキはその逆のスタートを象徴した概念。あの日見た星の鼓動をまた感じるために、キラキラドキドキを探し始めたのが戸山香澄の物語の始まりでした。その後、香澄は色んな部活を体験入部するのですがなかなか星の鼓動を感じられません。それで少し未来が見えなくなってに俯いた時に、市ヶ谷有咲が道端に貼り付けた星のシールからその煌めきを再び感じ取り、そして始まったのがバンド、今のPoppin'Partyというわけです。

星の鼓動でも述べましたが、キラキラドキドキにはそのキラキラとドキドキがリンクする必要があります。部活動での青春は確かに他の女子高生がキラキラして見えるのですが、香澄にとってのドキドキとはリンクしませんでした。同じことが、留学を失敗した千早愛音にも言えます。MyGO!!!!!のキャッチコピーは同期(シンクロ)なのでこちらの表現を利用するべきでしょう。他の才女がキラキラしてそうだからと自分も挑戦した英国留学は、そのドキドキとはシンクロできず、失意の内に英国を去ります。そしてその末に出会ったのが、帰国先の日本では大流行していたバンド活動。ここで燈と出会ってから、そのキラキラとドキドキがようやくシンクロするに至りました。

一方、キラキラドキドキの厄介な性質は、どこにでも存在しているのに意識しようとしなければ見失うところです。アニメ1期以降、ずっと一緒にいるポピパは常にサプライズを仕掛け合うことで、絶えずキラキラドキドキを感じられる関係を維持し続けています。日常は、動き続けなければならないもの*2。動き続けることをやめた日常は輝きとときめきを失い、やがて退屈という名の地獄へと姿を変えます。

現に、CiRCLEスタッフの月島まりなは、かつて自身が行っていたバンド活動が、そのマンネリズムにより解散した過去を持っています。キラキラだとか夢だとか希望だとかドキドキだとかでこの世界はまわり続けている以上、そのキラキラドキドキを失えばこの世界は静止します。そして、世界=自分が星の鼓動なのですから、それが静止するのは死と同義です。ただ、月島まりなはその静止を拒むために、完全に煌めきを失っていたバンドを解散するという決断をしました。本当に終わらないために、終わる。その区切りをつけたことによってCiRCLEに従事し、香澄たち次世代のガールズバンドがキラキラドキドキできるようサポートをするようになった人物です。

 

CiRCLINGとは、輪であり和であり環であり続ける、始点と終点の接続が描く螺旋

……は???

ああ、いえ、気持ちは分かります。順に説明していきましょう。

第一に、CiRCLINGとは人と人とが繋がり続けて広がる輪。特にリアルライブの方でのPoppin'Partyは、先述した星の鼓動のような一体感を重視したパフォーマンスを行っています。時に気の狂ったオタクが「俺もポピパの一員なんだなって……」とこぼして一種のミームになりもしましたが、このオタクは間違いなくポピパの真理を見ていた賢者だと尊敬の念すら覚えます。ポピパの音楽は世界との一体化を目指したものであり、その輪を世界中に広げることが本懐なのですから、僕もあなたもアイツもあの娘も世界中の人々がポピパの一員です。少なくとも、ポピパの、バンドリのオタクは、そういう狂った信条をどこか胸にファン活動をしているところがあります。

第二に、CiRCLINGとは5人の流動的な役割の変化による和。その長い物語で幾度も“不和”を経験するPoppin'Partyですが、それは得てして誰かが1人で何かの役割を背負い込むことで発生します。そして得てしてその役割をそれぞれ全員が肩代わりすることで、その役割を流動的に分かち合うことで解決していきました。アニメ2~3期を通して全員が作曲を経験したのはまさにその象徴でした*3。そして今、RiNGのバイトによって月島まりなが担ってきた後発バンドのサポーターとしての役割も、香澄と沙綾に限ってですがその荷を背負い始めた形です。

第三に、CiRCLINGとは受け取ったものを他の誰かに渡していく環。先述のGlitter*Greenから受け取った星の鼓動やキラキラドキドキといった“初期衝動”は、後輩の朝日六花や倉田ましろに授けてそれぞれRAISE A SUILENやMorfonicaの萌芽になっていきました。そういった、誰かが何かを始めるきっかけの存在になることをずっとずっと継承していき、その営みが広がり続けることで世界との一体化が実現していく……。CiRCLINGとはキラキラドキドキから始まって星の鼓動へと辿り着くための手段を表した概念でもあるのです。

第四に、CiRCLINGとは始点と終点を繋ぎ続ける循環。ファンや演者から聖書とも称される小説版BanG Dream!のあとがきには、バンドリそのものを循環しながら新しい場所へと向かい続ける物語と、美しくも意味深な表現がされています。そしてその後、バンドリではポピパに限らず、いくつもキャラクターの原点が一つの到達点になる物語が展開されました。後に幾つか例を挙げますが、まるで螺旋のように、同じ場所を転回しているようでありながら、その軌道は前へ上へと進んでいる。BanG(絆)という発砲音を冠したタイトルだけに、弾丸のようにスピンを描きながら進む、このコンテンツの在り方を象徴した概念になっています。

この概念はMyGO!!!!!においても、BanG(絆)は絆創膏、スピンはダンゴムシ前転となって脈動し続けています。そして原点であった春日影を演奏した7話で一つの循環が達成されました。そこで円満とは行かないのがMyGO!!!!!の難しいところで、その後はそよがキレたり捨てられたり逃げたりのすったもんだを演じます。けれども10話では「いるんだろ、七星蓮長崎そよ! 来い!!」とバンドを終わらせに来たはずのそよをゴールラインに立たせ、新たな始まりを迎えました。5人の姿は今度こそ見事な円環を描き、高松燈のダンゴムシの殻はそよの傷を塞ぐ絆創膏の役目を果たしていました。

 

最短アニメ履修ルート

さて、ここまでポピパについて語ってきたのは、とりあえずアニメ1期に当たって頂くためです。いや、良いアニメなんですよ本当に。作画ばかりが叩かれますが、今に通ずるポピパ独特の空気感の掛け合いはクセになるものがありますし、観れば観るほど新たな発見がある作品なのも保証します。ただ根本的に問題なのは、このアニメ1期がコンテンツのスタートとして機能していないことだと思います。何というか、やってることは割と哲学なので……。とはいえ今でなら主題である星の鼓動、キラキラドキドキ、CiRCLING、あとはやりきったかい?も本記事のように読み解かれましたし、ガイドさえあれば視聴しやすくなったかと思います(本記事がそのガイドになれば本当に幸いです)。何だかんだ言って1期が全ての根っこにあるのは変わらないので、1期→ガルパピコ1期→2期→3期と観て頂くのが結局はベストかと思います。これがおそらくは推奨最短履修ルートです。

2期はガルパのキャラクターが問答無用で出てくるんですけど、その前にショートアニメのガルパピコ1期でキャラクターを掴んでおけばひとまずはサクッと入れるかと思います*4。もし本編1期を観てやはり難解に感じたなら、一旦飛ばしてガルパピコから入るのも一つの手ではあるかと思いますね。いずれ1期には当たってほしいですけど。

2~3期は本当に分かりやすく面白いので、諸手を挙げてオススメできます。脚本・シリーズ構成の綾奈ゆにこ先生だけはずっとバンドリを手掛けてくれていますが、制作スタジオのサンジゲンや監督の柿本広大氏が参加したのは2期からで、ここで現在の体制が確立したと言えます。そこから更にMorfonicationや劇場版のぽっぴん’どりーむがにも当たっていただきたく、特にぽっぴん’どりーむはアニメを軸としたポピパの物語の一つの集大成ではあるのでこれはマストとしたいのですが……この作品が現在配信等では観られないので視聴困難になっています。そ、そんな! 終点が存在しなければCiRCLINGは完成しないのに!!(何とか視聴しやすくして下さい……)

さて、その後でいいので秋にMyGO!!!!!の実装を控えたガルパに当たるのが望ましいのですが、現状、そしておそらく今後も、ガルパには大きな問題を抱え続けます。単純に、ストーリーの量が多すぎるのです。

 

ガルパのストーリー多すぎる問題に立ち向かおう

えー、はい。というわけでというか、今回の記事を書いた最大の目的はこれになります。バンドリがヒットした最大要因はバンドリ!ガールズバンドパーティ!というソーシャルゲームの隆盛です。リリース当初からそのシナリオの完成度が評価され、今でもバンドリのメインエンジンとしての役目を果たしていますが……ソシャゲというメディアそのものの栄枯盛衰のスパン、プロセカやウマ娘に代表される後発コンテンツの隆盛、一時期は自慢のシナリオ面でも陥りかけていたマンネリズムの兆候など*5、現在では逆風にさらされています。ただ、我々ファンとして切実なのはそういう経済面での問題よりも、時を重ねるごとに物語が増え続けるので新規の人ほど追いきれなくなるということかと思います。

アニメ1期の難解すぎ問題は正直何とかなるんですよ。この記事で書いたように、ポピパの重要概念をとりあえず理解してもらえれば何とか飲み込みやすくなる、量ではなく質の問題なので。けれども、ガルパが現在直面しているのは量の問題。流石にそこについての問題意識はあるようで、翌年進級すると告知してからの6年目はこれまで各キャラクターが抱えていた問題に怒涛の勢いで決着をつけていきました。そしてこの春に進級を迎えてからのシーズン3はかなり刷新した展開になっており、ここからでも入れるように入り口を設けている。ただ、刷新しただけにスタートダッシュに苦しんでいる印象があるのは偽らざる感想でもあります。これまでのガルパって、過去の物語をリソースとして活用してきたからこそ推進力があったわけですし……。

そしてもう一つ問題なのが、ガルパの物語の有機的な複雑さ。正直ね、追ってる人間からすれば滅茶苦茶面白いんです。あのキャラとこのキャラが予想外の交流を深めていく! アイツとコイツがそんな課題で共感するなんて! まさにキラキラドキドキ!! それに夢中で何年も経った結果、新規の人にはどこから読み進めればいいのか分からないコンテンツになってきたとも感じています。いやまあ最初から全部読むのがベストというのが偽らざる本音なのですが、その「全部」が長大になってきた今、それを声高にするのも現実的ではなくなってきたなとも感じています。重要な物語はバンドストーリーとして他とは異なる扱いを受けているのでそこだけ読むのも手ではあります。ただ、バンドストーリー自体それまでのイベントストーリーの積み重ねの末の集大成だったりするわけで……。

その問題を受け止めて、以下の項ではMyGO!!!!!やAve Mujicaに近しいテーマからストーリーを選出し、解説を行っています。その各テーマにおいて、特に読んでほしいストーリー(イベントストーリー・バンドストーリーの区別はしていません)を4選しました。そのセットが合計8つで、とりあえず32選した形になります。ガルパに当たらなくてもテーマ性自体は理解できるよう記述したつもりですが、もしそれで興味が湧いたのならばその4選されたストーリーを頂ければと思います。ガルパの魅力が伝わる渾身のセトリを組んだつもりです。

 

Theme 1:るんっ♪≒相互理解 ~氷川日菜~

周知のように、高松燈の所属する部活は羽丘女子学園の天文部。かつてPastel*Palettesのギターである氷川日菜が先代部長にして唯一の部員だった部でもあり、そして高松燈と同様に氷川日菜も世界から隔絶された存在として生きてきました。

氷川日菜を一言で表すならば天才。大好きなおねーちゃんことRoseliaの氷川紗夜からは当初その才能を妬まれて距離を置かれますし、同じバンドのPastel*Palettesのメンバーからもなかなかその行動原理を理解されずにいました。そんな彼女が世界での自分の在り方を確かめたのが『What a Wonderful World!』。決して理解できないし理解されることもない他人という存在。けれどもそんな他人の瞳に映る自分の姿から、自分の立ち位置を確認することに喜びを感じられるようになりました。氷川日菜にとっての世界は、自分の周囲全てがまるで鏡の万華鏡です。

そんな氷川日菜を象徴する口癖としてるんっ♪というものがあります。主に気分が昂ぶった時に発せられるので、ヤバいとかエモいとか儚いとかの亜種かと誤認してしまうのですが、ガルパのシナリオを読み込んでいると明らかに日菜のるんっ♪には、一定の法則性と確固たる意味合いのある、特定の感情を表した言葉であることが分かってきます。

それをPastel*Palettesメンバーで考察して答えにたどり着いた物語が、『君に届け、スウィートハートバレンタイン♪』でした。本作では日菜のるんっ♪の正体を読み解けという禅問答の如きクエスチョンがアイドル番組の企画として組み込まれます。正気かこの番組!? まあ、それを組み込んだのは番組というより日菜本人なんですけど。

幸いにも聡明な大和麻弥を擁するだけに、そして長らく苦楽を共にしてきただけに、Pastel*Palettesはこの難問に対して見事に正解を出してきます。誰からも理解されず、誰からも共感されなかった氷川日菜。彼女がその感情を高ぶらせて「るんっ♪」と叫ぶのは、自分が理解されそうになった瞬間だということが突き止められます。ただ、同時にこれが相互理解そのものではないことには注意が必要ではあります。孤高の天才である彼女を理解できる人間など、それこそ要楽奈くらいの逸材を除けばそうそう存在しません。Pastel*Palettesの面々や、今では丸くなったおねーちゃんがどれだけ寄り添おうとも、それは理解したつもりでしかないもの。けれども、日菜にとってはそれでいいのです。

幼少期の、絵心も決してあるとは言えない紗夜が必死で描いた自身の絵を、日菜は目を輝かせて欲しがりました。絵を多少描いたことがある人ならば分かると思うのですが、絵というのは対象への観察と理解が完成度を大きく左右するもの。幼き紗夜の描き上げたそれは、おそらく決して優れた絵ではなかったでしょう。けれども、おねーちゃんがあたしを理解できているかはともかく、理解しようと必死に頑張ってくれたことがあまりにも嬉しかったから……氷川日菜はその絵を宝物のように扱いました。氷川日菜という孤独な天才にとっては理解しようとしてくれること自体が何にも代えがたい喜びでした。それが「るんっ♪」という感嘆詞になって出てくるキャラクターなのです。元より自分以外の全てが異物という世界で生きている氷川日菜にとっては、その全てが旺盛な好奇心の対象ではあります。ただ、その好奇心をそそってやまない“他人”が、自分を理解しようとしてくれている。その漸近的な相互理解が、氷川日菜にとってのかけがえのない感情であり、それが昂ぶって口をついてくる「るんっ♪」として表現されているものです。

  • 秋時雨に傘を
  • What a Wonderful World!
  • ふたつ星のアンサンブル
  • 君に届けスウィートハートバレンタイン♪

氷川日菜のるんっ♪に好奇心を抱いたのならば、以上の4つの物語をお勧めします。『秋時雨に傘を』では氷川紗夜と氷川日菜の衝突と、お互いの道をそれぞれ進む決意が描かれ、自身を雨女と自嘲する紗夜にとってのがフィーチャーされるイベントでもあります。『What a Wonderful World!』と『君に届けスウィートハートバレンタイン』については既述の通りとして、『ふたつ星のアンサンブル』では高松燈が所属する羽丘天文部がどういう活動をしてきたのかが描かれます(割とロクなもんじゃないですが……)。そこでは花女の天文部と合同で活動する物語が描かれました。花女の天文部は同じボーカルで星好きの三角初華も関与しそうなところです。そちらの部長は花咲川の異空間なのですが……。そして、MyGO!!!!!およびAve Mujicaに繋がってくると思われるセリフが登場するのもこのイベントです。MyGO!!!!!の中核となるテーマは「共感」だと、現プロデューサーからも語られたことですし。

 

Theme 2:忘れ去られた感情 ~八潮瑠唯~

CRYCHICの発起人となった豊川祥子が憧れてやまなかったのは月ノ森の先輩バンドであったMorfonica。その優雅さと繊細さに惹かれたと語りますが、やはり鵜の真似をするカラスには実態が見えていないのか、どちらかと言えばMorfonicaは高松燈と同様に泥だらけで何度も転びながら進んできたバンドです。まあ、ビスクドールになって恋をした先輩がいるのでドール趣味の祥子が魅了されるのは無理なかったかもしれませんが。

さて、Morfonicaにはそれこそ普通とか当たり前って何だろうと考えている広町七深がいるのですが*6、取り上げたいのはヴァイオリンの八潮瑠唯。上記画像のセリフが前述の紗夜から日菜へ向けたセリフと転倒していることがお分かりいただけると思うのですが、氷川日菜とは大変似通ったテーマを背負っています。ちなみに上記の画像で何でホストみたいな格好してんの?と気になった方もいらっしゃるかもしれませんが、理由は単純明快でホストクラブで接客してるからです。え???*7

ただ、天才ゆえの孤独を背負ってきた氷川日菜や広町七深とは決定的に異なり、八潮瑠唯は凡人。「あの子」に追いつこうと懸命に努力を重ねましたが、コンクールでは5位止まり。やがて瑠唯は大好きだったヴァイオリンが苦痛になっていき、音楽を諦めると共に感情に突き動かされることを極度に拒む現実主義者として生きるようになります。感情から耳を塞ぐようになった結果、他人の感情が全く理解できない、深刻なまでの後天性相互不理解へと陥りました。いや、相互どころか、八潮瑠唯は自分の感情さえ理解できなくなっています。無機質な振る舞いしか出来なくなった瑠唯のことは、よくロボットとさえ表現されます。人形と似ていますね*8

ただ、瑠唯にとって幸福だったのは、同じバンドのメンバーに表現力豊かな臆病者がいたことでした。バンドストーリー2章『fly with the night』にて解散寸前に至った末に、かつてヴァイオリンを辞めた時の自分の感情の正体が恐怖であったことを倉田ましろ共感したのが一つの契機になりました。臆病者という点では同類の、けれども見ている景色の雄大さでは遠く及ばないちょっと頼りない少女によって、ようやく八潮瑠唯は自分自身の感情に輪郭を結べるようになりました。

氷川日菜が他人の瞳に映る自分の姿から自分自身の立ち位置を明確にしたように、八潮瑠唯は他人が語る自分の姿から自分自身の感情にようやく触れ合えるようになります。ただその歩みもまだ日進月歩で、未だ感情豊かとは程遠いのですが、最近ではキャンプの最中に突然川飛び込みをするくらいには突飛な行動も取るようになってきました。

幼少期の八潮瑠唯は、今とは別人のように感情表現豊かな、可愛らしい女の子でした。瑠唯は可愛いんだよ! そして彼女はずっと超えられないと思っていた「あの子」、Roseliaの白金燐子との1日限りのセッションを経て、あの日忘却してきた初心を、ヴァイオリンや音楽が心の底から好きだった気持ちをほんの少しながら思い出します。CiRCLINGの概念を理解しているならばもう分かるでしょう。感情に突き動かされた先に何があるのか。八潮瑠唯の原点です。

  • 調和と変化のアナリーゼ
  • fly with the night
  • 波間に揺れるブルジョン
  • そして、始まるわたし/私の音

ロボットになってしまった少女が人間性を取り戻していく物語に興味がおありなら、ターゲットとすべきはこの4つ。Morfonicaのメンバーを理解し難いとは言うものの、『調和と変化のアナリーゼ』では着実にメンバーへの理解が深まっている様子が見て取れます。この事実にも鈍感な辺りがやはりロボらしいところですね。Morfonicaのバンドストーリー2章『fly with the night』で自分の感情を言い当てられて以降の八潮瑠唯は、何かと倉田ましろを尊敬し、同時にやたらと甘やかすようになっていきます。燈と立希の関係に近いものがあります(透子が愛音に当たるのも含めて)。そういうとこ感情に素直じゃない? 『波間に揺れるブルジョン』が先のホストクラブイベント。『そして、始まるわたし/私の音』にて白金燐子とのセッションが行われ、一つのCiRCLINGが完成します。ちなみに燐子とのセッションの際には、「音と遊ぶ」という瑠唯にとっての一つのゴールが幼少期の燐子より示されますが、『波間に揺れるブルジョン』で対立することになったRASのマスキングは、バンドを本気の遊び場にしている人物。結局当該ストーリーでは理解し合えたとは言い難いのですが、正反対の人間性の彼女らがとりあえずは納得し合うことで一つの和解を見ました。

 

Theme 3:「こんな私」からの脱却 ~羽沢つぐみ~

7話で判明したように、椎名立希はどうも熱狂的なAfterglowのファンらしいです。中等部までは羽丘だったので、この学園のカリスマに惚れてしまうのは無理からぬことでしょう。3話の回想でキーボードの羽沢つぐみ先輩を見た時には「本物だ…」みたいなリアクションで口をぽっかり開けていました。アホ面晒してキャワイイねぇ……。

この羽沢つぐみ、何かとIt's MyGO!!!!!の中でも出番が多いのですが、間違いなくこれ自体も意図的です。5話にて燈の歌詞から受けた影響として「こんな私でも生きていていいんだって思った」とそのマイナスの自己肯定感が救われたことを吐露した立希でしたが、この羽沢つぐみも同様に自分を卑下する言葉を漏らしがちな人物でした。ボーカルの美竹蘭を始め、どんどん前に進んでいく幼馴染みたちの後ろ姿を眩しく感じていた羽沢つぐみは、自分が5人の中で最後尾にいると感じて過ごしていました。Afterglowの中では「何かを始める合図をくれるのはいつもつぐみ」と、むしろ先頭にいる存在としてずっと尊重されてはいるのですが。

その考え違いが大和麻弥に指摘されます。こんな私と自分を卑下することは、「こんな私」に自分を押しとどめることと同義。大和麻弥も地味でオタク臭いこんなジブンがアイドルでいいのかと思い悩んできた、パスパレの最後尾にいると思い込んでいた人物。その同様にして先に自己否定を克服した立場から、つぐみへとその殻を破る言葉を投げかけました。ちなみに先の月島まりなの挫折を描いた物語もこの『ホープフルセッション』であり、バンドストーリーを除いたイベントストーリーの中から傑作を1つ選べと言われたら、僕は迷わずこの『ホープフルセッション』を挙げます。それだけ濃密に、バンドリ!ガールズバンドパーティ!の描く少女の成長の在り方が凝縮された物語になっています。

その後の『ガールズ・ビー・アンビシャス!』では、大和麻弥にそうしてもらったように、実家の羽沢珈琲店にバイトとして入ってきた二葉つくしの成長をサポートして見せました。どれだけドジを踏んで傷だらけになりながらも決して自分自身を卑下しない点でかつてのつぐみとは異なる不屈の精神を持ってはいますが、それでもやはり自分を月ノ森の最後尾と考えているのは似た者同士。そんな彼女に、「小さなできない」を解決していこうと、毎日少しずつ成長していく『私』を受け入れる言葉を投げかけます。これもまた受け取ったものを誰かに渡していくCiRCLINGの一例です。

余談ですが、リアルバンドMyGO!!!!!の1stライブでは、椎名立希役の林鼓子さんが別のイベント*9とダブルブッキングしたため、最後に駆けつけるまでは二葉つくし役のmikaさんが代役のドラムを務めたエピソードもあったりします。リアルバンドとのリンクやシンクロを拾いたがるバンドリとしては、この点留意しておきたいところになります。それこそガルパへの実装後に、つくしこそが立希の「こんな私」という枠を取り払う先輩になってくれるかもしれません。

  • ジブン、アイディアル
  • ホープフルセッション
  • RUNっ♪ in the Hallway
  • ガールズ・ビー・アンビシャス!

劣等感を抱き続けた少女たちの物語に心を惹かれたのならば、推薦すべきはこの4つ。私事ながら僕もアニメ2期からバンドリに入った身であり、その当初に開催されていた『ジブン、アイディアル』はこの僕がガルパで最初に読んだストーリーとしても思い出深いです。最初に読んでもその大和麻弥の想いが胸に刺さりました。そこから展開していく一連の劣等感を晴らしていく物語はバンドリ!ガールズバンドパーティ!の真骨頂だとも思っています。

なお、前述の氷川姉妹は通称さよひなと呼ばれ極めて人気の高い百合カップリングとなっているのですが、この2人の関係は紗夜がつぐみから、日菜が麻弥から影響を受けて進展するのが特徴なので、2人だけの物語を追い続けると片手落ちになる厄介さがあります。なのでさよひなに興味を持ったのならこちらの4つのセットも追うとより理解が深まると思います。

 

Theme 4:逃げ道を塞ぐ者 ~青葉モカと上原ひまり~

逃げてばかりの人生。そう千早愛音は自分の人生を自嘲しましたが、ガルパを経てきた人間からすればもっと酷い逃げ方をしてた奴がいるなあと思ったのも事実でした。愛音と違い、そいつはギターが天才的に上手いので音楽面では頼りになってしまうのも厄介でした。それでいて飄々と立ち回って、気付いたら居なくなっている……。この点は愛音に加えて楽奈に似ているかもしれません。そう、そいつの名前は青葉モカ。立希が憧れるAfterglowのギターにして、ガルパ最大の自由人です。まあ、バンドリのギタリストって大半が自由人なんですけど。

同じパンクロックを志向するバンドとしてAfterglowとMyGO!!!!!は何かと関連が深く、立希が憧れている他にも、ボーカルの美竹蘭も吐き出しきれなかった想いをノートにぶつけていた点では高松燈と同族とも言うべき不器用さを持っています。中3の頃、幼馴染みとクラスが離れて居場所を失くしていた美竹蘭が1人で思索にふけるためのダンゴムシの殻にしていたのは羽丘女子学園の屋上。そこに青葉モカが持ち前の軽飄さで接近していくことで幼馴染みの関係がほぐされていき、そのノートに綴られた言葉がAfterglowの歌詞になっていきます。It's MyGO!!!!!10話ではまさしくこの羽丘の屋上で、ギターとボーカルが分かり合うというAfterglowさんのリスペクトとでも言うべき展開で愛音が再び燈に心を開いていきました。何というか、そういう力場になっています。

以降モカはずっと蘭の最大の理解者だと振る舞っていた、自身はそう思っていたはずなのですが、Afterglowのバンドストーリー2章『ツナグ、ソラモヨウ』では、蘭が実家の華道に打ち込むようになってきたことから、徐々にその関係が怪しくなっていきます。ずっと隣にいると誓ったはずが、徐々に蘭の歌詞が自分の理解から離れていった。それを蘭なりの成長だと悟った瞬間、その足ををすっと一歩、誰からも気づかれることなく後ろへと進める選択をすることになりました。お前のそれは逃げだよね?

『ツナグ、ソラモヨウ』以降、青葉モカは詐術とすら言っていい態度で数々の逃げ口を誰知らず走り抜けていきます。けれどもその逃げを塞いだのはAfterglowのリーダーである上原ひまりでした。この上原ひまり、元々はその素直さからとても騙されやすく、青葉モカのからかいにすぐ引っかかっておちょくられるような、本来ちょっと頼りない人物でした。けれども、友達を全力で放っておかないという自身の強みを自覚した瞬間に、その真っ直ぐさでもってAfterglowを引っ張っていくリーダーとして覚醒していきます。尤も、この場では結局逃げられるのですが、ひまりの言葉に感化された巴やつぐみ、そして蘭が正面からモカと向き合うことで、モカは遂に逃げることを諦めます。そして、理解できなくなったと思っていた蘭の歌詞が、自分たちが出会った原点と地続きだったことを理解し、観念してその背中を追い続ける姿勢を辞めました。そしてモカが至った境地は、背中を追いかけるのではなく、たとえ同じ方向を見ていなくても隣にいるという中合わせでした。

  • ツナグ、ソラモヨウ
  • 追想、いつかのクリスマス
  • STAND BY YOU!
  • それぞれの道、結ぶ茜空

青葉モカがその逃げを放棄する物語を追いかけたいならば、読んでほしいのは上記の4つ。他のリストでは箱イベントだけにならないよう混合イベントも交えているのですが、Afterglowに関して変化球を投ずる余地はありませんでした。まあでも、その真っ直ぐさがAfterglowらしいとも思います。『追想、いつかのクリスマス』はAfterglowの原点とも言うべき出会いの物語であり、青葉モカがその逃げを辞めて今の美竹蘭に向き合うに至るきっかけがここで語られています。そして『STAND BY YOU!』は本当に何気ない日常的なエピソードのようでいて、上原ひまりが自分自身の強みを自覚する物語でもありました。最後に『それぞれの道、結ぶ茜空』はモカが逃げることを辞めた一つの区切りの物語。この4つは本当に不可分なほどに青葉モカの成長を段階的に描いた四部作になっています。なお、最新のAfterglowの物語では、今度は美竹蘭がこっそりと逃げを打つかのような展開が繰り広げられつつあり、青葉モカだけがその本心に気付いているようでもあります。今度は青葉モカが逃げを塞ぐ役割を期待できるのかもしれません。

 

Theme 5:共依存から共尊重へ ~今井リサ~

10話で救われた今となっては笑って語れる……いや今までも散々ネタにしてきたのですが、そよママはCRYCHICに依存的とも言える執着を持っていました。そして、そんなお世話をすることで自分の存在価値を感じるという共依存的なパーソナリティはやはりバンドリ的には見覚えのあるキャラクター性でもありました。今井リサと山吹沙綾。特に前者の今井リサの方は、この2人もまたそよと同様にバンドの中でママとして振る舞うことによって、己の居場所を見出していた人物です*10

今井リサの人間性を一言で表すならば献身。エゴイストだらけのRoseliaの中にあって、1人粉骨砕身してRoseliaに尽くそうとします。……まあRoseliaの面々はリサがいなけりゃライブハウスの注文すらもおぼつかなかった程度にはポンコツ集団なので、その溢れんばかりの母性が爆発するのもしょうがなかったのかもしれません。この点、カラオケボックスで珍道中を繰り広げていたCRYCHICにキュンキュンした長崎そよに受け継がれているように思います。ただ、そよと同様にバンドメンバーを使い捨ての道具にしようとしていたのは、リサではなくその依存先の湊友希那だったりと遺伝元はクロスしています。

作詞に挑戦したり、差し入れのクッキーを焼いたりして演奏以外の部分で尽くす姿が描かれるのですが、リサがそうまでして献身的に振る舞うのは自分だけ音楽の実力がないと思い込んでいるから。つまりはリサも前述の麻弥やつぐみやつくしと同様に、自分がRoseliaの最後尾だと考えていました。自信がないが故に、友希那を初めとしたRoseliaポンコツたちをお世話してその存在意義を確かめていたと言えます。

ところでRoseliaの物語ではひたすらに「誇り」という言葉が繰り返されるのですが、これはほぼ尊重の同義語として使われます。Roseliaのバンドストーリー2章『Neo-Aspect』は、その正式タイトルNeo-Respectなんじゃないの?と思うくらいに、それまでエゴイズムに突き動かされてきた5人が互いを尊重して結束する姿が描かれました。ただこの物語で一つだけ、取りこぼした尊重も残されました。今井リサの、今井リサ自身への尊重です。

その自尊心の欠如は『ノーブル・ローズ ~花々を連れて~』に至ってようやく修正されます。作詞に挑戦しても自分自身の言葉を吐き出せない、落ち込んだ様子を見兼ねた氷川紗夜には、自らを蔑むような言葉を口にする……。『Neo-Aspect』の際に相互尊重を獲得したのですから、紗夜にとっては尊重する存在の今井リサが自身の価値を毀損するのは耐え難い愚行でした。けれども幼き日に友希那と過ごした原点の景色を思い出すことで、ようやく自分らしい言葉でRoseliaを支えられる作詞家へと立ち上がっていきます。そしてその原点はRoseliaが渇望し続けた頂点に繋がってもいました。この時の湊友希那が語っていた「私は、歌が好き」という原初の気持ちを思い出したことが、おうたのうまいおうさまを本物の頂点へと導くことになります。

  • いつか、届け、アタシの詩
  • Neo-Aspect
  • ノーブル・ローズ ~花々を連れて~
  • ニイハオ♪回遊スマイルマップ

世話焼きママならぬ世話焼き女房が自尊心を手にするまでの物語は、以上の4つを読むとスッと入ってくるかと思います。『いつか、届け、アタシの詩』は前述したPoppin'Partyのキラキラドキドキの一端が語られますし、パスパレを除いた4バンドの音楽性が比較されるのでバンドごとの音楽性を感じるにも打ってつけの一作。『Neo-Aspect』はバンドストーリー2章であり、Roseliaがお互いの尊重を手にする様子が描かれます。『ノーブル・ローズ』シリーズは三部作となっており、これを中心としてEpisode of Roseliaとして映画化されることにもなりました*11。なお、世話焼き女房がその献身を辞めたかと言うとそうではなく、『ニイハオ♪回遊スマイルマップ』では、若干ワーカホリック気味なリサをケアしようとした青葉モカと奥沢美咲が逆にケアされる側に回る様子が面白おかしく描かれます。自尊心の欠如は改めるべき態度でしたが、献身そのものは今井リサの長所としてずっと尊重されています

 

Theme 6:子供でいられる場所 ~レイヤと和奏レイ~

親の離婚や引っ越しなど、「大人の都合」に振り回されて子供らしくはいられなかった。それが内面化してもいった長崎そよでしたが、10話で遂に子供らしく泣きじゃくることができました。ずっと堪えていたものの発散であり、横で子供みたいに泣いてる立希や愛音に共感を寄せてしまったもらい泣きでもあり、そして子供になれなかったママの産声でもありました。生まれてこれて良かったね……。

この生まれ直すとでも言うべき物語は、実のところバンドリ3期の再生産でもあります。その物語の担い手はRAISE A SUILENプロデューサーのチュチュ。主に体格面に恵まれずに音を奏でる才能がなかった彼女は、それでも音楽を諦めずに自分の代わりに音を奏でてくれる才能を集めていきます。そんな彼女の子供じみた身勝手がやがてRASを崩壊寸前に導きますが、彼女に見つけてもらえた才能たちがチュチュへと誕生歌を贈ることによって、珠手ちゆとして生まれた少女はチュチュとして生まれ直すことを完了させました。RASはメンバー名が全て何かを覆うものであること、そして命名によってそれまでの生を一度捨て去ることなど、Ave Mujicaに受け継がれたテーマの多いバンドです。どちらも立ち位置はヒールですし、自分にない才能の持ち主を探すという点も豊川祥子に受け継がれているように感じます。

まあチュチュの再誕の物語はアニメで語られたので、本記事の主題ではありません(気になったらアニメ3期を観て下さい)。ガルパにRASの物語のバトンが託されて以降、同様のテーマを展開したのはボーカルのレイヤでした。その大人びた外見と卓越した歌唱力から、幼少の頃より子供扱いされずに生きてきた天性のボーカリスト。その彼女が唯一子供らしく振る舞えたのは「花ちゃん」こと花園たえの前でのみ。彼女と幼き日に交わした約束が一度は叶うものの、結局たえがポピパに戻ったことでレイヤは再び和奏レイとして振る舞える場所を失いました。

そんな彼女にとっての揺りかごになったのは、やはりRAISE A SUILENでした。未だ子供のような振る舞いでメンバーを振り回すチュチュを諫めるため、レイヤは子供じみたケンカをすることでバンドを引っ張っていきます。ボーカルは……星。レイヤが和奏レイに戻って子供として生きること、そして「ぶっ潰す」という幼い言葉をチュチュと交わし合うことが、RASの目印になりました。前述した八潮瑠唯の項でも触れましたが、この後、他のRASの物語でも、このバンドが彼女らにとっての本気の遊び場であることが確認されます*12

ただ、レイヤが和奏レイで居られるのはあくまでもRASの中でだけ。ファンの前では――いや、ファンの前どころかサポートに赴いたスタッフの前ですら、クールなイメージを保つためにレイヤは苦手なブラックコーヒーしか飲まないという虚勢を張り続けています*13。言わば、RAS(と花園たえの前)以外ではずっと『RASのレイヤ』という仮面を被って生きることを誓ったようなもの。あまりにも危うく辛い生き方を選択したように映りますが、後に花園たえとピンクのうさうさ帝国という1日限定バンドを結成した際には、100回生まれ変わっても花ちゃんに会いたいし、100回生まれ変わってもRASになると、力強くその運命を受容しました。当然、100回花園たえとの別離を経験することになるとしても……。

  • NO LIMIT!!!
  • outside/inside
  • 100回生まれ変わっても
  • CORUSCATE -DNA-

この哀しくも勇敢なヒーローの英雄譚は、アニメ3期の後に以上のストーリーで語られました。ケンカで進んでいく様子は『NO LIMIT!!!』で、「RASのレイヤ」の仮面を被った瞬間は『outside/inside』で、そしてピンクのうさうさ帝国にまつわる、哀しき運命を受け止める物語は『100回生まれ変わっても』で描かれます。そしてRASのバンドストーリー2章である『CORUSCATE -DNA-』で、和奏レイというダークヒーローが覚醒する勇姿を目撃できるはずです。

 

Theme 7:変身ヒーロー ~奥沢美咲~

ダークヒーローの話をしましたが、いずれ登場するAve Mujicaもそうした仮面のダークヒーローとしての趣が強いように思います。そういえば仮面ライダー虫の姿のヒーローなわけですが、姿を変える際に口にする「変身!」という決めのセリフは、どうやらフランツ・カフカの「変身」が元ネタらしいです*14。この記事を書く前に読んだのですが、かなり豊川祥子に影響してそうな作品でした。今後の話でその関連性(特に家庭環境)が明らかになったら詳しく触れたいと思います。

さて、変身の物語というのは後発の和奏レイが登場する以前からガルパでは語られていたものでもあります。その主たる担い手は奥沢美咲。当初は普通の女子高生が【キグルミバイト】やってみただけのはずなのですが、弦巻こころたちハロー、ハッピーワールド!の面々から散々振り回され続けた結果、今ではミッシェルとして人々を笑顔にすることを楽しむ本物のヒーローになっています。ただ、そんな彼女も変身ヒーローゆえの苦悩に苛まれたこともありました。

変身した奥沢美咲がどれだけ苦労しても、称賛されるのはクマの姿のミッシェルのみ。本来のハロハピの活動ではキグルミを脱いだ美咲が作曲をしたり広報などの雑用も手掛けているのですがバンドストーリー2章の『キミがいなくちゃっ!』では3バカこと弦巻こころ・瀬田薫・北沢はぐみの3人が何かいい感じに美咲の仕事を手伝えてしまい、ミッシェルとしての仕事だけに専念できる状況が完成しました。それ自体は流動的な役割の変化による和を感じて望ましくもあったのですが、ミッシェルは大人気なのに奥沢美咲としては何も出来ていないし評価されないという、ミッシェルに自身の存在意義を吸い取られてしまうような疎外感を覚えることになりました。私、いらないんでしょ?

そんな美咲を救ったのは、舞台少女役者として自分ではない者になることが常の瀬田薫。数多の舞台を渡り歩いた彼女なればこそ、役柄であるミッシェルばかりが評価されて役者である自分が置き去りになっていじけている奥沢美咲に最適な処方箋を投げかけてくれます。この薫の言葉によって蒙を啓かれた美咲は、最後にこころからのミッシェルも美咲もいるから笑顔になれるという言葉が決定打となり、改めてハロハピとしての活動に精を出します。これを機に、ハロハピは常にメンバー数を6人(クマを1匹扱いするのは無粋というものです)とするようになります。ミッシェルも、そして奥沢美咲も、世界を笑顔にするヒーローとして数えられた瞬間でした。

その後はミッシェルとしても奥沢美咲としても笑顔の伝道師として活動していくのですが、ミッシェルが奥沢美咲に与えてくれる力を決定的に描いたイベントストーリーとして『バディ×バディ』があります。ミッシェルだからこそ人々を笑顔にできる、そんな不思議な力をこのキグルミから貰っていることを、奥沢美咲は神妙な面持ちで語ります。いやまあ行動しているのは美咲自身なので、別にミッシェルを被らなくたってその潜在能力は持っているはずなのですが、ミッシェルを被ることで自分の中に眠っていた力が引き出されるのだと言うのです。同様のテーマはポピパがハロウィンパレードを練り歩いた仮面舞踏会仮装パレードを通じても描かれ、普段ならば絶対できない……ちょっと無謀とも言える行動を数々こなして、自分たちの中の潜在的な力を開放していきます。確かにその時のポピパや奥沢美咲も「変身」してはいるのですが、仮面ライダーの変身ベルトと違ってその変身により身体能力や精神力が強化されることはありません。ただ、変身したという気分の高揚が、普段とは違う自分の力を引き出している。これこそがポピパが語った「非日常の力」であり、同時に奥沢美咲がミッシェルから引き出してもらっているヒーローとしての力です。ちなみに、最近ではミッシェルの力を借りて愛の告白すらやってました。

そして何もこれはフィクションだけの物語ではなく、我々の現実世界においても定期的に、毎年12月24日に起きていることです。『サンタがうちにやってくる』では、はぐみの家庭でのとーちゃんがサンタをやってくれた話から広がって、クリスマスに子供に夢を見せてくれた人たちが全てサンタさんとして讃えられました。キグルミを被ったヒーローは世間広しと言えどもそう多くはないと思いますが、サンタのふりしたことのあるお父さんお母さんは世界中に存在することでしょう。ハロハピの文脈から言えば、そういったサンタの仮面を被って子供を喜ばせてきた人々全てが誉れあるヒーローです。ヒーローは案外近くにいて、あなたを笑顔にしてくれているのかもしれません。

  • キミがいなくちゃっ!
  • サンタがうちにやってくる
  • バディ×バディ
  • 例えばこんな脱げない日には

愛と笑顔を守る変身ヒーローの活躍は以上の4つのストーリーで痛快に描かれます。記事の都合上から時系列は大幅に入れ替えましたが、正しい順序は以上のようになっています。『バディ×バディ』はもう1体のキグルミであるマリー・アンドロメダの「中の人」が、訳あって本来の北沢はぐみから上原ひまりに変更される物語でもあり、変身ヒーローが中の人を入れ替えたらどうなるのか普段キグルミの中にいない人物がキグルミから見た世界がどう変わるのかを描いた傑作ストーリーでもあるため、特に当たってほしい物語になっています。そして『例えばこんな脱げない日には』が、ミッシェルから勇気を貰ってこころに愛を囁いた濃密なひと時の一作となっています。

 

Theme 8:他者から見た自分 VS ホントウノワタシ ~白鷺千聖と瀬田薫~

念願の歌手デビューを果たしたものの、鏡に映った自分の顔を「酷い顔……」と自嘲する三角初華。It's MyGO!!!!!10話では、その彼女の本質が芸能界で求められているクールな王子様などではなく、確かに中性的ながらどこか少年じみたあどけなさを帯びた等身大の少女であることが明らかになりました。その子供らしい口調が弾むようであっただけに、芸能界では相当背伸びした姿を要求され続けているのが伝わってきます。そしてガルパにもよく似た境遇で生きてきた人物が確かにいました。Pastel*Palettes白鷺千聖です。

天才子役としてその名声をほしいままにしてきた白鷺千聖ですが、幼少期の精神性はやはり年頃の小学生そのもの。ドラマで意地の悪い少女を演じた際にクラスメイトから千聖本人もそういう人間性なのだと誤解を受け、その心はボロボロに擦り切れそうになりました。このストーリーを読んだ当時、役柄と役者を混同してしまうクラスメイトの反応に「あ~、こーいうのって子供の純粋さと残酷さ故だよな~」などと、大人としてどこか一笑に付すような受け止め方をしてしまいました。ですが、wi(l)d-screen baroqueの大場ななを目撃した後の今ならクラスメイトの反応を笑えません。本物の迫真の演技というのは、演者の感情そのものがぶつけられているかのように体感してしまうもの。あの大場ななの大立ち回りを見た時、その場面転換の急さも働いて、まるで大場ななが本当に怒りと失望から他の舞台少女たちを殺戮したような錯覚を覚えました。ただ、「まるで強いお酒を飲んだみたい」という、大場ななが絶対に言うはずのないセリフから、これが大場なな渾身の演技だったことを理解させられます。名演技には、本人のパーソナリティを歪めて他人に届けてしまう力がある。その副作用に苦しんだのが幼少期の白鷺千聖であり、そのことに胸を痛めたのが幼馴染みの瀬田薫でした。同様の問題に苦しんだ奥沢美咲に瀬田薫が寄り添えたのも、白鷺千聖の姿を見てきたからこそです。

その後、白鷺千聖は一種の強がりのような言葉を残して、中学進学を機に瀬田薫とは一時期疎遠になります。けれども、あの日、芸能界に潰されそうだった“ちーちゃん”は確かに存在した。いつか“ちーちゃん”を守れるようになりたいと、その強さに近づくために瀬田薫は演劇部に入部しました。この世は舞台、人はみな役者シェイクスピアから強い影響を受けている瀬田薫が、人生の役柄に選んだのは『王子様』でした。臆病だった“かおちゃん”は、人生を賭けて王子様を演じ続けることで、自分自身すらも偽れるほどに王子様としての生き様を手にすることになります。和奏レイを残存させたレイヤともまた異なる、見事なまでにポジティブな他者イメージの内面化。ただ、おそらく薫にとって最大の誤算であり吉報でもあったのは、白鷺千聖Pastel*Palettesという芸能界を共に逞しく歩める仲間を手にしたことによって、彼女を守る王子様など不要になってしまったことでした。今では白鷺千聖は、自分らしい姿でパスパレメンバーと共に芸能活動を謳歌しています。

さて、“ちーちゃん”はパスパレによって守られて今も生き永らえていますが、“かおちゃん”は王子様に上書きされて消えてしまったのでしょうか。答えは勿論NO。白鷺千聖と瀬田薫の集大成のようなイベント『その鐘は夜を知らない』では、今もまだ薫の心の中には臆病で優しい“かおちゃん”が息づいていることが、役柄と役者を行ったり来たりし合う、舞台に生きる2人の少女らしい物語の中で、その存在が確かめられました。それこそ、白鷺千聖が演技の中で“ちーちゃん”を滲み出させることによって。あの日消えてしまいそうだった“ちーちゃん”が、白鷺千聖という確固たる自己を保持しながら演じることによって、瀬田薫の中に眠っていた“かおちゃん”を呼び覚まして見せました。

以上のように、基本的にガルパでは本人が納得できる形で他者からのイメージと本来の自分が合一することで解決を見ます。その納得の形が多彩ではあるのですが、合一させない結果になることはほぼ先述のレイヤと、あとは鳰原令王那を封印したパレオくらいなもので、どちらかというと少数派です。それだけに、後に仮面のダークヒーローになるAve Mujicaはこの他者イメージと本来の自己を敢えて分離させ続けるバンドではないかと踏んでいます。そしてAve Mujicaのボイスドラマの第1話のタイトルは、まさしくホントウノワタシ  -再生-でした。

  • 夢に続くプロムナード
  • 幼き日の面影は今もそばに
  • Play act!チャレンジ*オーディション
  • その鐘は夜を知らない

他者からのイメージは本当にガルパの主題なのでそれを扱ったストーリーは他にも数多く存在しますが*15、とりあえず本記事の内容に沿って頂くならこの4つを抑えて頂ければと思います。『夢に続くプロムナード』では周囲から遠巻きに扱われていた中学時代の白鷺千聖が描かれ、瀬田薫との別離後~パスパレ結成以前もやはり他者からのイメージで孤独に苛まれていた様子が描かれています。この時に寄り添ってくれた松原花音と親友になり、今では同棲しています。他者イメージというテーマからは少し外れるものの、パスパレにおける役者・白鷺千聖の一つの到達点は『Play act!チャレンジ*オーディション』で描かれました。丸山彩と共にドラマのオーディションに挑む物語の中で、丸山彩の影響を演技に取り込むことで目当ての役を掴みます。後の『その鐘は夜を知らない』に通ずる、役柄と役者の相互作用の物語です。

 

以上、4選8リスト。計32のストーリーを紹介致しましたが………………え?

 

面倒だからさあ、とりあえず一番面白い奴だけ教えてくれない?

わーったわーった。ホラやるよ。これだ。

ガルパで一番面白いストーリーは何かと問われたら、間違いなくPoppin'Partyのバンドストーリー3章『Live Beyond!!』と答えます。とりあえずアニメ3期まで観たのなら普通に入れる内容でもあるかと思いますので、その意味でもオススメです。沙綾の成長ぶりなんかには少し驚くかもしれませんが(そこはガルパの物語を通じて描いたところではあるので……)。バンドリ!ガールズバンドパーティ!が最大の主題に据えているのは、バンドや人間関係を通した少女たちの「成長」。そしてこの『Live Beyond!!』は、その成長をどうすれば実現できるのか、またどうすればそれを見知らぬ人々へと届けられるのかを極限の筆致で描きあげた珠玉のストーリーになっています。

詳細については当時あまりに感動した際に書き上げた上記リンクの記事に譲りますが、正直なところ、これを読んだ時、もう今後の人生でこれを超える物語に出会うことはないだろうとまで思ったくらいです。ところが、そこからたった1年ちょっとで、It's MyGO!!!!!がそこに比肩する物語を繰り出して来ました。バンドリとかいうコンテンツホンマ凄ない??? とにかく本当に、It's MyGO!!!!!くらい面白いし情緒を揺さぶられまくるので、とりあえず1つ触れるのならば、『Live Beyond!!』を強く推薦します。

この『Live Beyond!!!』で最終的に戸山香澄が出した答えは、星に向かって歌うというものでした。これにより、かつて星の鼓動を感じられなかったとある少女にも、そのキラキラとドキドキがようやく届くに至ります。

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実はIt's MyGO!!!!!10話で高松燈が長崎そよに想いを届けたのも同じなのです。三角初華との語らいで都会でも見える北極星の話になりましたが、その後公開されたMVでMyGO!!!!!(名前はまだ無い)がカシオペア座の形をしていたことで全てが繋がりました。10話のライブシーンで高松燈は後ろに向かって歌いましたが、これは絆創膏の役目でもありお尻を出した子一等賞*16でもあり、北極星に向かって歌う姿でもあります。

ちなみにカシオペア座は北斗七星と並んで北極星を見つけるための目印の星座でもあり、ここに高松燈なりのボーカルは……星が体現されました。ところでAve Mujicaが北斗七星だとすると、星の数が2つ足りません。まさか莉伽と瑠奈が正式に加わるんでしょうか……。

 

あとがきに聖書を添えて

……以上で本当に以上。4×8+1の計33作をご紹介しました。し、しんどかった……。もっと語りたいストーリーはいくつもあるのに、断腸の思いで削り続けるのが……。4選したリストはなるべく直線的に特定のキャラクターのみを扱うようには心がけたのですが、そのキャラクターの扱ってる話を別のバンドがもっと深掘りしてるとかが平気であるので(美咲の変身の力をポピパがやったのが好例です)、そういった注釈めいた話をどれだけやらずに語るかにも苦心しました。流石に「非日常の力」だけは削りきれませんでしたけど。

我ながら無茶な記事を企画したもんだと思いますが、一方でガルパのストーリーをコンパクトにパッケージングするというのはどこかでやりたいなと思っていたので、それをMyGO!!!!!やAve Mujicaのテーマと絡めるというのは丁度いい機会でした。以上の33選を読まれて「おい!あのイベストが入ってないぞ!」とか「自分の推しが語られてない!」とか感じた方もいるかもしれませんが、俺だって丸山彩の話したかったわ。ただ、とりあえずIt's MyGO!!!!!で多少なりとも興味を持った方に響かせるには、同様のテーマを持ったキャラクターとストーリーがどこにあるのか、その案内図を作るのが一番だと思ったので、こういう形の記事になりました。

ハッキリ言って記事タイトルのように、本当にMyGO!!!!!から入った方が迷子にならなくなる記事に出来たかは自信がありませんし、ガルパについてはどこまで言っても語り尽くせないので、この記事は「やりきった」とは口が裂けても言えません。ただ、こういう形でバンドリやガルパに入りやすくなるガイドは何かしら必要だと思ったので、書く価値はあったかと思います。MyGO!!!!!のガルパ実装の際にはもう少し既存キャラクターとの関連が見えるでしょうから、その際にはこういった形のレコメンドを新たにやれればいいかなと思います。それこそ桐ケ谷透子と千早愛音なんか一番絡みそうなところですし。

そして、布教ついでに最後にもう1つだけ、聖書を紹介させて下さい。Poppin'Partyの作詞も手掛ける中村航先生が、アニメ以前に著した小説版BanG Dream!です。この作品が聖書と呼称されるのは市ヶ谷有咲役の伊藤彩沙さんがそう呼んだことに由来しますが、現行のPoppin'Partyからは一度断絶して独立したキャラクターになっていることからも、何というか創世記めいた存在になっています。ただ、断絶しているからこそ彼女たちの物語は小説だけで完結してもおり、コンパクトさの面では今一番触れやすいバンドリの物語なのではないでしょうか。そして旧・戸山香澄は高松燈のように鬱屈とした日々を送っていた少女です。高松燈という新たな主人公像は、今とはまるで違う戸山香澄の在り方に回帰したとも言え、これもまたCiRCLINGの一例です。単純に小説としての完成度も高いですし、高松燈に共感を覚えた方なら是非触れてほしいと思います。

*1:無論、バンドリより10年以上前からある作品ですし、共通の元ネタは疑いようもなく古代インド思想の「梵我一如」です。

*2:構成上余裕がないので注釈に回しましたが、Afterglowの「いつも通り」も、絶えず形を変え続けており類似の概念です。

*3:牛込りみは元よりメイン作曲担当でしたが、Returnsでたえ、Dreamers Go!で香澄、Step×Step!で沙綾、ミライトレインで有咲が全員作曲を担当しました

*4:ちなみにガルパピコを1期以外推奨ルートに入れていないのは、2期以降の出来が単純に悪いためです。ホラーオチの乱用、キャラの扱いの雑さ……。ただ、ピコ1期は本当に丁寧に作られたショートアニメだと思います。

*5:卒業の話が始まってからは盛り返しましたし進級後は方向性の転換も見えてきましたが、ファン目線でも5年目の辺りは「えっ?」と思うシナリオが時折繰り出される辛い時期でした。

*6:広町七深の「普通」というテーマが未だもって解決を見ているとは言い難いため、本記事では取り上げづらいところでもあります。

*7:一応作中ではギャルソンという名目です。一応。

*8:もっとも、Ave Mujicaの人形は刹那的な一瞬のみを追い求めるようになるため、似て非なるものだとは思います。

*9:氏が主役を務める「キラッとプリ☆チャン」を含めたプリティーシリーズの合同イベントでした。

*10:沙綾はどちらかというと家族間でその課題が描かれる人物でした。本記事では沙綾の話は割愛します。

*11:ただ、尺は流石に足りていなかった印象です……。

*12:特に強く語られたのはマスキングとロックがメインの『From the Past』です。

*13:10話の立希も海鈴の前でブラックコーヒーを飲んでいましたが、これも虚勢の現れでしょう。

*14:ソースはウィキペディア

*15:北沢はぐみや宇田川巴などもこのテーマを特に取り扱うキャラクターです。

*16:北極星こぐま座の尻尾の部分に当たります。熊の子見ていたかくれんぼが終わりました。