矛盾ケヴァット

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BanG Dream! It's MyGO!!!!! 1~3話感想

な、何だこのアニメは……!!

 

 

全ては壮大な前フリだった

MyGO!!!!!が産声を上げたのは記憶もまだ新しい2022年4月29日のこと。『“現実(リアル)”と“仮想(キャラクター)”が同期するバンド』という、どこかで聞いたことのあるキャッチコピーを引っ提げて突如バンドリ!プロジェクトに加入してきます。当然ながら界隈を大いにどよめかせるものの、5人のイニシャルがSTARTであったり*1、キャストは秘匿されながらも声優で結成されたバンドでライブを行うことが発表されるなど、これまでにない鬱屈した雰囲気を漂わせながら、バンドリらしさようなものは感じられる立ち上がりではありました。

その後はたった1年で4回単独ライブをこなすなどハイペースにリアルバンドとしての成熟度を上げつつ、YoutubeのMyGO!!!!!チャンネルを通じて楽曲を配信したり、4コマ漫画風動画やショートアニメ、そしてWebラジオ風番組「迷子集会」を通じてキャラクターの人となりを見せていったりと、極めて実直に、そして着実に、バンドリのファンにMyGO!!!!!の存在をリアルバンドとキャラクターの両面から定着させていきます。筆者である僕も、時折困惑させられながらこれは何か新しいBanG Dream!が始まるぞという予感(キラキラドキドキ)に胸を躍らせていました。そして4thライブ「前へ進む音の中で」にて、それまで秘匿されていたキャストが完全公開、更にはアニメ化も発表され、いよいよ完全体に。

果たしてどのようにしてバンドを結成したのか。彼女らがどういう事情や想いを抱えているのか……。遂に、MyGO!!!!!の物語が、ベールを脱ぐ。うおおおお! よく知ってるけど深くは知らなかった女たちの物語が始まる!! そんなテンションで突撃した6月29日の22時、それは起きました。

し、知らない女の話をやっている……!! いや、全然知らないけどギリギリ存在だけは知っている女の話をやっている……!!!

 

急襲、Ave Mujica

もはや勿体ぶることでもないのですが、上記のカットの両サイドにいるのはAve Mujicaのオブリビオニス(Key.)とモーティス(Gt.)。ラテン語で“忘却”と“死”を意味する仮初の名を背負う彼女らが、それぞれ豊川祥子(とがわさきこ)、そして若葉睦わかばむつみ)という真名を引っ提げて、アニメ放映開始から僅か30秒後に突如MyGO!!!!!の、そしてBanG Dream!の世界に殴り込みをかけてきました。お、おい! ちょっと待ってくれ! それは全く聞いてない!!

そもそも、Ave Mujicaとは何なのか……と問われるとぶっちゃけよく分からんと返すしかありません。しかしそれもそのはず、バンドとしての体裁からしてキャラクターも演者も覆面を被った、完全に全てを伏せた状態でこちらも突如バンドリ!プロジェクトに躍り出てきました。この辺、ブシロードがプロレス団体の母体になっていることを思うと覆面レスラーのやり方を踏襲していると言えます。とはいえ、登場はもっと謎だらけ……というよりも胡乱とさえ言って良かったでしょう。突如ネット上に謎のカウントダウンページが登場し、2ヶ月かけていざカウントダウンが0に到達したかと思えば、特に大きな発表はなくLINEアカウントに誘導*2。1ヶ月半の長期に及ぶ謎解きゲームを開始するなどの奇行を続けます。当時一定の距離は置きながら動向を追っていましたが、ハッキリ言って意味が分かりませんでしたしお前舐めとんのかコラとさえ思った次第。とはいえ、謎解き企画が一段落する度に供給されるボイスドラマと楽曲は流石の高クオリティで、正直感情のやり場に困る状況が続きました。

そんなAve Mujicaでしたが、6月初頭の0thライブでは7弦ギター2人(しかも片方はギターボーカル)に5弦ベースという声優バンドでなくとも狂気としか思えぬ布陣で華々しく姿を表します。しかし、その後はLINEアカウントも反応しなくなるなど、それまである種の不快感すら漂わせながらネットをざわつかせていたのとは打って変わって沈黙するようになりました。

それが突然物陰から飛び出してきてぶん殴ってくるかの如き急襲かましてきたわけです。まさに理想的なゲリラ攻撃。いやはや、やられました。闇の勢力として満点の立ち回りです。

 

バンドリらしさの反転、反転が生む循環

今にして思えば、Ave Mujicaの若干スベってるとさえ思った一連のプロモーションは、敢えてヘイトを買っていたのかもしれません。MyGO!!!!!が多少の鬱屈を帯びながらもバンドリらしさを押し出してきたのに対して、Ave Mujicaのそれは徹頭徹尾バンドリらしくないものでした。そのバンドリらしいバンドとバンドリらしくないバンド同士での衝突やすれ違いを通して、新たにBanG Dream!を再定義しようとしている……それがこのIt's MyGO!!!!!なのだと思います。

とはいえ、そのバンドリ性反バンドリ性とでも言うべきものがMyGO!!!!!とAve Mujicaにそれぞれパラレルに付与されているかというと決してそうではなく、むしろMyGO!!!!!もバンドリらしくない部分が多く、逆にAve Mujicaにバンドリらしさを感じる部分も多々あり、まるで太極図(☯️)のような関係になっているように思えます。そして太極図の意匠はまさしく、お互いの色を取り入れながら循環している円環です。

それを象徴しているのが、燈がバンドを始めるきっかけになった祥子との出会いのシーンになります。バンドリの全ての始まりは、高校入学当初にキラキラドキドキを見つけられずにいた戸山香澄がふと下を見て地面に輝く星のシールを見つけたことでした。星の鼓動に焦がれ、いつも上ばかり見ていた少女が下を向いてしまったからこそ見つけられた星。それと対をなすように、小石やダンゴムシに興味を示す俯きがちの高松燈の始まりは、顔を上げて風に舞うハクウンボクの花に手を伸ばしたこと。ここで祥子に自殺を疑われて突き飛ばされるわけですが、その後の会話が大変示唆に富んでいます。

花と命、どっちが大事ですの!? ……んー、いえ、花にも命がありますわね。

落ちてきた花だから、死んでたと思う。

言うなれば、燈が手を伸ばしたのは空に舞う星型の死骸と、大変ネガティブなもの。一方の祥子はと言えばその美しい花から生命を見出そうとしており、戸山香澄的な、これまでのバンドリらしいポジティブな精神を持っているのは祥子の方と言えます。ポジティブの中にあるネガティブと、ネガティブの中にあるポジティブ。その2つが混濁し合っている、そんなシーンになっています。

そんな祥子もAve Mujicaを結成すると、満たされない日々を送っている少女達を“今”だけを楽しむ人形に変えていくようになります*3。今を楽しむというのはPoppin'Partyの二重の虹で高らかに謳われたものではあるのですが、過去も未来も“今”の連続体と考えて全力で生きているからこそのもの。全てに目を背けて“今”だけを刹那的に消費する人形は、同じことを語っているようでいて、その視界の広さに決定的な断絶が存在します。

その後、膝を擦り剥いた祥子のために燈が差し出したのは絆創膏。絆を創ると書くそれを与えてくれた燈に対し、祥子はノートに書かれた言葉を詞にした音楽で返します。絆と音楽を交換し合う形で新たなキズナミュージックを感じさせつつも、その絆も音楽も最終的にはCRYCHICの解散によって壊れてしまったものになっています。

また、豊川祥子にとって憧れから始まったバンド活動が悲惨な結末を迎えたように、千早愛音のギターボーカルになって目立つという初期衝動=イニシャルも叶わないことが決定づけられており、ここでも2つのバンドの対応と、これまでのバンドリ的な要素の反転を感じられます。

そして、豊川祥子はCRYCHICの結成時にバンドを「運命共同体」と表現しましたが、バンドメンバーを探している千早愛音は「奇跡的にいいメンバーと巡り会えるかもしれないよ」と燈を焚き付けます。運命と奇跡が混ざりあってた……。いえ、Poppin'PartyとRAISE A SUILENが最後には一緒に武道館で夢を撃ち抜いたような展開になるとは考えづらいので、もっと別の未来になるでしょう。太極図(☯️)って、混ざるようで混ざり合っていないので……。

 

全てにおいて解像度が低い少女 ~千早愛音~

全体のコンセプトは整理し終えたので、ここからはキャラクターそれぞれについて考えていきたいと思います。全体の主人公こそ高松燈のはずですが、1~2話で物語を牽引する役目を果たしたのは間違いなく千早愛音でした。

持ち前の行動力から数々の人物と交流を深めていくのですが、その行動理念はと言えば「何か流行ってるから」でバンドを始め、燈が以前バンドを解散したと聴けば「音楽性の違いとか!?」などととりあえず馴染みのあるフレーズを使い、挙句そよが月ノ森生と知るや聞きかじりの知識だけで怒涛の質問攻勢を仕掛けるわで、全てにおいて物事の表層だけをなぞっている解像度の低さが目につきます。中学時代は眼鏡を掛けていたことからもそれは意図的なキャラ付けで、なるほど、何もきちんと見えていないから迷子になるという、この作品の第二の主人公に相応しい短所の持ち主です。愛音がそうなるに至ったのは学業も人間関係も器用にこなせる要領の良さからであり、その順風満帆な人生において留学失敗により初めて転んだことで、そして高松燈の目の前で文字通り転んだことで、高松燈の人生に巻き込まれていき、再起を余儀なくされることになります。

そんな解像度の低い世界で生きている人間を解像度高く描けていることにまず拍手を送りたくなるわけですが、その出自は不透明な部分ばかり。英国から日本に帰国するシーンから始まり、高校1年生のGW前に転入してくるという不可解さ。英国にいたからバンドが流行っていることを知らないまでならまだしも、sumimiというアイドルを愛好していながらクラスメイトから羽丘由来のバンドとしてパスパレの名前を出されても無反応。挙句、FWFで頂点に立ってプロデビューまで飾ったRoseliaのポスターにもピンと来ていない様子でした。

そもそも流行っていればバンドを始めちゃうような考えの持ち主ならば、燈たちのように中3からバンドを組んでいて然るべきだったわけで(中学時代は上手くいっていたわけですし)、ここに千早愛音留年説が持ち上がります。そもそもイギリスは秋入学制度。夏頃にはもう準備期間に入るでしょうが、その前の数ヶ月間は日本にいたでしょう。大ガールズバンド時代に突入しだした頃の、アニメBanG Dream!で言えば2期ぐらいの頃の日本には。その頃にちょっとだけギターをやっており、その後イギリスに留学。このコンテンツはゆるふわサザエさん時空*4なので時系列を整理するのは難しいのですが、この後にパスパレが本格的に売れだしてRoseliaのFWF出場やプロデビューが実現しているのは無理のない話で、全ての辻褄が合います*5。転んでいるどころか、1年間(我々の時空で言えば4年間)を、棒に振っている……!!

前述のように、その再起を志して始めたバンドですらも、望みのボーカル的立ち位置は燈の存在から叶わず、隅に追いやられるから嫌だと思っていたギターでさえも自分より遥かに上手い要楽奈にリードギターを譲るという、屈辱的な運命が待ち受けているキャラクターでもあります。更に悪いことに、愛好しているsumimiの三角初華がライバルバンドのギターボーカル・ドロリスとして立ちはだかることにもなるわけです。れ、劣等感を覚える相手が多すぎる!!

ちょっと血も涙もなさすぎてドン引きするくらいなのですが、それでもリズムギターとしてMyGO!!!!!の一員で居続けることを選ぶことも約束されており、そこに至るまでの心の動きに俄然興味が湧くキャラクターでもあります。いや~、こういう調子乗りキャラクターが本気になっていくの、個人的には凄く刺さりますね。ちなみにガルパでの最推しキャラクターは同様の道筋を歩んだ桐ケ谷透子なのですが、目立ちたいからギターを始めた透子は愛音と対極にある存在でもあり、ガルパに実装された暁には非常に面白い関係を構築しそうで期待しています。

……ところで、三角初華の相方の純田まながCV.反田葉月って本気ですか? この人、他のコンテンツで人間として合格させる歌*6歌ってるんですけど、満たされない少女達を人形に変えていくAve Mujicaの中心人物と相方なのはかなり悪い冗談では……あ、ギターもそれ歌ってたか

 

実家のような母親感 ~長崎そよ~

長崎そよという人物を語る時、MyGO!!!!!の声優陣を初めとした関係者から口を揃えて語られるフレーズがあります。曰く、「お母さん」。或いは、「ママ」。思えば、バブみを感じてオギャりたいというミームが流行したこともありました。ストレス社会の現代、時には何かに寄りかかって甘えたくもなるもの。それが好みの美少女キャラであればなお最高。そんなオタクのだいぶキモい妄想とイキリから生まれたミームではありましたが、一定の市民権を獲得した以上、そこに需要があったことは否めません。MyGO!!!!!が心の闇を扱う作品である以上、そうした現代病から目を背けてしまうのはやはりフェイクというもの。ならば、見せてもらおうか。新たなBanG Dream!の、MyGO!!!!!の扱う、その母性的なキャラクターというものを!!

うわーん!!怖いよママーッ!!!

アニメ放映前の生配信ではそよキッズなる造語も生まれましたが、蓋を開ければ全そよキッズ ギャン泣きの闇がそこには広がっていました。こ、この女……明らかに最も闇が深い!!!

とはいえその雰囲気は放映以前から何となく伝わるものではありました。キャラクター紹介やあらすじなどから、他の4人はおぼろげながらもその背景事情が多少なりとも汲み取れたのに対し、そよだけが全くのノーヒントと言っていい状態。明らかに何かが伏せられている違和感がずっと漂っていました。何より、こうした面倒見のいいキャラクターが深い事情を抱えているというのは王道中の王道。バンドリ的にも山吹沙綾で既に通ってきた道であり、ハッキリ言って見えていた地雷でした。

極めつけはアニメ放送を記念して東京メトロ池袋駅に掲載されたこの広告でした。全体的に重めのフレーズが大小織り交ぜた明朝体でレイアウトされる中、ひときわ異彩を放つ、「私ね、燈ちゃんの歌詞――前から苦手だったんだ」という衝撃的な響きの、長崎そよのセリフとしか思えないその文字列。前々から違和感は覚えていたものの、こいつ、ヤバい!!という確信はこの時に芽生えたと言っていいでしょう。そして蓋を開けたら案の定超ヤバかった。個人的には、そういう印象でした。

また、この危険すぎる母性には、それこそ実家のような懐かしさをも覚えます。長崎そよがこうなるに至ったのは、間違いなくCRYCHICという過去に囚われているからでしょう。同じ学校の若葉睦との語らいからも、そして燈目当てで愛音に接近したことからも、あの日のCRYCHICの“再演”を目論んでいるであろうことがありありと伺えます。私が守るの、ずっと、何度でも! そういう決心の暴走が起きる予感がしてしまうのです。具体的には第7話で

また、山吹沙綾に近しい要素も同様に感じられます。長崎そよの特徴として、考え事をしながら指先をいじる癖があることが公式サイトのプロフィールにも記載されていますが、Poppin'Partyにおいて“指”と言えばSTAR BEAT! ~ホシノコドウ~。小説版BanG Dream!において戸山香澄と山吹沙綾が「指切りげんまん」をして友達になったその様子が、この楽曲では指をつなぎ始まったすべてという歌詞で美しく表現されています。となれば、そよもMyGO!!!!!或いはCRYCHICの誰かと指切りげんまんをして関係が始まっていく……かというと、そうはならないでしょう。繰り返しますが、この作品はバンドリらしい要素の反転を盛り込んでくる作品です。そういう直接的な踏襲は、絶対にないと考えていいと思います。

他方、ここで長崎そよのキャラクター性が「お母さん」として表現されることが意味を帯びてきます。親指はお父さん指、小指は赤ちゃん指、そして、人差し指はお母さん指。幼い頃、多くの人がこういう呼び名を教えられてきたはずです。であれば、MyGO!!!!!における指をつなぎ始まったすべては人差し指で行われるそれになるはずです。この後の歌詞が昨日までの日々にサヨナラするであることからも、過去に囚われている長崎そよを救うそれは、人差し指で行われる始まりの儀式になるとしか思えません。思い当たるのは、この指とまれです。そしてそれは間違いなく、バンドしよう!と言ってくれた千早愛音の、そして豊川祥子のそれではあるでしょう。ただ、現状は救われていないことからも、長崎そよが本気で誰かの指にとまったことはないのでしょう。

なお、中学に入ってからお嬢様学校の月ノ森女子学園に入学したらしく、高層ビル上のかなり広い自室からも実家の太さを伺えますが、愛音のあっさい理解からの質問攻めには少々の居心地の悪さを感じているようでした。そして生粋のお嬢様である豊川祥子や若葉睦と違って、カラオケボックスでの注文や楽しみ方を心得ているなど、庶民的な娯楽への理解がある様子。となると、背景には両親の再婚があったことが見て取れます。親の都合で、お嬢様になってしまった少女。再婚して裕福になった家庭が円満かどうかは定かでありませんが、元は一度壊れた家庭を経験している人物です。お母さんやママの他にもお姉さんと表現されることが多いキャラクターですが、もしかするとお姉さん指に着けるRiNGに振り回された人生を送ってきたのかもしれません。

 

一匹狼気取りの仔犬 ~椎名立希~

放映前のプロモーション段階では謎だらけのキャラクターが多かった中、椎名立希だけはその魅力がとても分かりやすく表出していました。その深すぎる愛を隠す気もなく口を開けば燈燈のbotとして振る舞い、その後もショートアニメではパンダの可愛さに悶絶するなど、極めて分かりやすいギャップ萌えでオタクの心を掴んでいきます。ちなみにバンドメンバーとのやり取りではツッコミを担当することが多いそうです。本当!? あなた絶対ボケでしょ!?

同じドラムの先輩から「お前……可愛いな!!」くらい言われそうな魅力に溢れていますが、作中での振る舞いもまさしく狂犬そのもの。愛音に絡まれる燈を見るや、即座に駆けつけ警護をする番犬っぷりを見せつけます。今後愛音とは犬猿の仲になっていくそうで、現にラジオ配信番組「迷子集会」などでは、その犬も食わないような喧嘩を度々行っています。そういえば、優等生の愛音が留学に失敗したのはまさに猿も木から落ちたようなもの。バンドを始めたのも周囲の猿真似で、浅はかな猿知恵を弄する人物でもあります。

可愛いと言ってしまえばそれまでですが、椎名立希の人間性は何かと問題が山積しています。一匹狼と表現されるその行動の数々は子供そのもの。RiNGでのアルバイトでは極力キッチンに引っ込み、仕方なくホールに出れば接客は無茶苦茶。CRYCHICの初会合では他の4人にやたら噛みついてくる始末でした。こう……言いますよね。弱い犬ほどよく吠えるって。

その立希がここまで攻撃的になるに至ったのは、公式プロフィールにもある4つ上の姉の存在でしょう。CRYCHICへの参加も豊川祥子が姉のツテを頼ったからだそうですが、月ノ森の吹奏楽部繋がりからかそよが非常に華々しい経歴を持った立希の姉の話をする際には、露骨に不機嫌そうな態度を取っていました。初対面の相手に対して全く褒められた態度ではありませんが、ここで姉の陰口を言って負け犬の遠吠えをしなかっただけ、評価できるかもしれません。それから、立希の通う学校は中学が羽丘で高校が花咲川と、戸山明日香の反転のような形になっています。うんうん、どっちもだねぇ。

かなり強烈なコンプレックスを抱いていることが伺えますが、高1になる立希の姉ということは満20歳相当に当たります。つまりは立派な大人。お酒も飲めちゃう年齢なわけです。ガルパでも大学生になった上級生の様子が描かれ、運転免許を取得するキャラクターも現れているのですが、やはり大人のアイコンと言えばお酒でしょう。満19歳の彼女らではそうした話がまだ展開できないわけで、この世代の人物が大きく絡んでくれそうなことは大変楽しみでもあります。ああ、いや、Glitter*Greenが実はこの世代ではあるのですが*7。ともあれ、子供じみた行動を取る立希のコンプレックスの対象が実績十分な大人の姉というのは、大変胸躍る対比になります。「子供」と「大人」、個人的に、とても好きなテーマです。

……実はお酒どころではなく、煙草を吸うキャラクターが出てくるかもしれません。Ave Mujicaの楽曲Mas?uerade Rhapsody Re?uest*8に含まれる紫煙という歌詞からして、Ave Mujicaには喫煙者がいる可能性大。未成年が確定しているオブリビオニスとモーティスは流石にあり得ないでしょうが、残りの3人の内の誰かしらに愛煙家がいることは濃厚かと思われます。実は6曲目となるAve Mujica(楽曲名)*9にも同様の単語が歌詞に含まれており、Ave Mujicaにおける1つのキーワードでもあると踏んでいます。お酒はともかく、煙草ってそれもう大人の負のアイコンでは……。しかしながら、MyGO!!!!!の楽曲に無路矢(のろし)という同じく煙モチーフの楽曲があることからも、煙草が今後重要なキーアイテムになっていくことは想像に難くありません。

そして、立希の姉の正体にせよ喫煙者にせよ、怪しいのは同じドラムのアモーリス。他のメンバーが苦痛、死、恐怖、忘却を意味するラテン語を屋号にしているのに対し、アモーリスのそれは。明らかに浮いています。そして滅茶苦茶太極図を感じます。妹の立希ちゃんを嫌われながらも溺愛してるとか、そんなドロドロした物語が脳裏に浮かんできます。そういえば、一匹狼って家族的な群れからはぐれた狼のことでしたっけ……。

 

自由気ままな野良猫 ~要楽奈~

何か勝手にジャカジャカギター弾いて勝手に満足して勝手に帰って行った。

以上

 

傷だらけの弱虫 ~高松燈~

BanG Dream!の新たな主人公は、キラキラドキドキとは正反対のところにいる少女でした。EDの栞の歌詞を借りるなら、「うじうじしくしく」「いじいじめそめそ」。星が好きで天文部に入り、プラネタリウムを鑑賞するシーンもあるなど、ほんのり戸山香澄と共通する部分もありますが――まあ、星の鼓動は感じられないでしょうね……。

バンドリ世界の根底に流れる平和律に守られてか、陰湿ないじめを受けたりはしませんし、友達付き合いも一応はあったようです。しかし周囲には一切溶け込めず、誰からも理解されることはなく、常に疎外感に苛まれている。架道橋から少し身を乗り出しただけで死のうとしていると勘違いされるほど暗い顔をして生きてきた、生きてるだけじゃ死んでいるようだった、等身大の少女。そんな高松燈の生きた心地のしない心情は「人間になりたい」という切実な文字列となって、ノートに綴られます。

周囲にいる人間と同じような人間になりたかった……。燈のそんな叫びとは対照的に、卒業していった先代天文部部長は、周囲の人間との違いから自分自身の存在を確かめていくという姿勢で、他人からは決して理解されない境遇をポジティブに生き抜いていました。「人間を知りたい」。それが氷川日菜の原動力であり、その瞳から見る世界をるんっ♪とカラフルに輝かせてくれる万華鏡でした。同じ筒状の眺めでも、燈のそれが穴の底からみんなを見上げるダンゴムシだったことを思うと雲泥の差があります。家の近所の月ノ森女子学園になら、同じように普通になりたかった人がいるんですけどねぇ……。

ところで、ダンゴムシと言えばその丸まった姿は円形なわけです。おっ、CiRCLINGか!?と思わず反応しそうになりますが、CiRCLINGはあくまで循環が主たる要素。始点から終点へと到達して一つ上の段階へ進んでいく螺旋であり、また、受け取った愛を誰かに渡し続ける相互作用でもあります。それを思うと、ダンゴムシの丸まりというのはただの閉塞的な防御でしかなく、また、たった1人で完結する円環なので、CiRCLINGたり得るものではありません。現在進行系のINGで終わる単語であるからには、その姿はもっと躍動的でなくてはなりません。ただ丸まって止まっているだけのその姿は、言うなればCiRCLINGのなり損ねです。

他方、高松燈の物語は常に誰かが転ぶことから始まっていたもの。CRYCHICの結成秘話では豊川祥子が、MyGO!!!!!の始まりでも千早愛音が、目の前で転んで傷を負うことで、その傷を絆創膏で覆うことで、絆を紡いできました。絆を創ると書く絆創膏で始まる絆というのも美しいのですが、根本的に絆創膏そのものに治癒力はありません。あくまで、外気からその柔らかな患部を塞ぐだけの、ダンゴムシの殻と同じ役割しか持てないのです。その傷を癒やすのは結局のところ、その傷を負った人間自身が持つ自己治癒力に他なりません。

愛音と絆を結ぶべく与えた絆創膏は、結局のところ愛音自身の治癒力によって傷が癒えて不要なものになりました。そのことに打ちひしがれ、そっと絆創膏を仕舞う様子がこのシーンではありありと描かれるのですが、その一方で、傷は治るものであるという、ネガティブの中のポジティブ(太極図!)がここにも顔を出します。不器用で空回って、傷つくことから逃げている。栞の歌詞にもあるその姿勢からの脱却が、燈に求められているものになります。我、傷を恐れるなかれ!

ダンゴムシがただ丸まっているだけでは確かにCiRCLINGたり得ません。じゃあどうするのか。転がるしかないでしょう。転がって、転がり続けて、殻回って、何回転も何回転もしていけば、その軌道は綺麗な螺旋を描きます。BanG Dream!という循環しながら新しい場所へと向かい続ける物語は、そんな傷だらけの弱虫を主人公にしたっていいと思います。

そして、高松燈にとってのもう1つの疎外感の源は、他のみんなのように卒業式で泣けなかったことでした。みんなのように、それを手放すことが惜しくなるくらいの何かを全く手に入れられなかった中学時代を思えば、It's MyGO!!!!!という作品は高松燈が泣き虫になるために始まった物語なのかもしれません。ティアドロップスすることすら叶わなかった高松燈の壱雫空が目から零れ落ちる瞬間を、今から心待ちにしたいと思います。

 

曇った眼、曇った笑顔 ~豊川祥子~

こちらの不意を突くように突如として姿を表した豊川祥子ですが、その出番たるや楽奈の10倍以上は軽くあるだろうという八面六臂の活躍を繰り広げます。まず楽奈を単位にするのやめない?

まずMorfonicaさんの大ファンというところからもお前話の分かる奴だなと思わされるわけですが、燈と同様にカブト虫のジャポニカ学習帳ア・テンポノートを愛用していたらしき発言、そして燈の歌詞に痛く感動し、歩道橋から「人間になりたいですわ~!」と叫び、挙句初めてのカラオケボックスを全力エンジョイするなど、怒涛の勢いでそのたぐい稀なる愛嬌を振りまいていきます。それでも結局は自身で結成したCRYCHICを自身で脱退し、解散させる顛末へと導いており、その行動力と物事の見えてなさにはどこか既視感を覚えます。既視感どころか、このアニメを観ている最中に同じような言動を取っていた奴がいるわけです。そう、千早愛音が。

千早愛音の視界が全てを浅く捉えている解像度の低さに満ちていることは既に述べた通りですが、豊川祥子の視界はMorfonicaさんへの盲目的な憧れから全てが曇っているとでも言うべきものです。そういえば、Morfonicaさんの2曲目のカバー曲のchAngEを主題歌にした作品でこんなこと言ってたっけなァ……。憧れは理解から最も遠い感情だよって……。

Morfonicaさんへの憧れから燈を誘ってバンドを始めるものの、燈の境遇にはお構いなし。良かれと思ってその歌詞を音楽にしてしまうし、勝手にそのノートをCRYCHICのメンバーに見せびらかす暴挙に及びます。確かに燈はバンドリ世界の平和律に守られていじめこそ受けずに済みましたが、祥子からされた黒歴史ノートのカツアゲは本来重大なプライバシーの侵害です。そもそも、燈がノートに書いていたのは別に歌詞でも何でもなく、本当にただ吐き出せずにいた思いの丈だったわけで、それを音楽にしてしまえたのは祥子の才能の賜物としか言いようがないわけです。それをずっと燈の才能によるものと勘違いしていたのは、やはり憧れによって眼が曇っていたと評するより他ありません。

その後、CRYCHICの船出は憧れのMorfonicaさんのそれがボロボロだったのとは打って変わって大成功を収めるのですが、SNSに書き込まれた反応から全てが暗転していきます。祥子の反応からも、我々の与り知らないところで何かしらとんでもないことがSNSに書き込まれた……と思うところなのですが、豊川祥子のキャラクター性を深掘りするならば、実のところ、それはこのシーンで明瞭に描かれている「ボーカル必死過ぎ」からこそ、何より大きなダメージを受けたと見ていいと思います。豊川祥子にとって、ボーカルの燈が必死な表情をしていることに絶大な失望感を覚える根拠があるのです。

まず何より、2人の出会いは燈が今にも死にそうな表情をして架道橋から身を乗り出す姿を祥子が目撃したことでした。その誤解はすぐ解けますが、その後、カラオケボックスで燈が笑うと「燈の笑顔、可愛らしいですわねぇ!」と感嘆し、CRYCHICの最初のライブ後には舞台袖で「燈、いい顔してますわ!」と褒め称えるなど、燈の笑顔に強い執着があることが伺えます。もっと言えば、幼馴染の若葉睦が本当はよく笑うことにも一家言ありそうでした。ちょっと頭ハロハピなところもあるかもしれませんが、死にそうな顔をしていた高松燈を笑顔にしたかったのが豊川祥子のイニシャル=初期衝動だったとするならば、バンド活動を通して笑顔にできたと思っていた燈が今にも死にそうなあの顔で歌っていたのなら、それまでの努力が全て水泡に帰すような気分だったに相違ありません。

第3話は全編通して、高松燈の一人称視点から描かれます。時折、鏡に映った燈自身から見た燈の表情は出てくるのですが、他の人物から見た客観的な燈の顔は伺えない作りになっています。高松燈がどういう表情で生きてきて、どういう表情で歌っていたか。それが全く見えない……のですが、それは何となく分かります。まあ、俯いていたのでしょう。顔を上げて歌えなかったのでしょう。それは、顔を上げて、歌いたい!と叫ぶ、音一会の歌詞が何より雄弁に語ります。今読めば明らかに燈から祥子へのメッセージソングだと分かるそれは、震えるいびつな文字に音楽という羽をくれた祥子に、今なら顔を上げて歌えるという全面的な感謝を捧げる歌詞になっています。転がり続けるダンゴムシに羽は不要だったとしても……。

そして、2人の出会いのきっかけとなったハクウンボク花言葉「朗らかな人」。今にも死にそうな顔をしていた高松燈に、朗らかに歌ってほしかった。そういう叶わぬ願いが散っていった演出と言っていいのかもしれません。高松燈は、常に本気で必死に歌う人なので……。

CRYCHICの結成から解散までが第3話では描かれましたが、解散に至った理由はそれぞれバラバラの方向を見ていたからだったのではないかと思います。大事に思える何かを欲しがっていた奴、Morfonicaさんに憧れていた奴、偉大すぎる姉を見返したかった奴、幼馴染の祥子に執着していた奴、そして5人一緒にいたかった奴……。5人が全く同じ方向を見れていなかった。それがCRYCHICの最大の失敗だと感じました。それを思えば、この痛切な叫びを感じるキービジュアルは、5人がそれぞれ違う方向に進みつつも、視線は同じ方向を見ているという点で、CRYCHICの失敗を克服した姿であるように思えます。

 

 

 

以上、BanG Dream!シリーズの新たな始まりを飾る、It's MyGO!!!!!の感想でした。いや、なっが! バカか!

3期やぽっぴん’どりーむ!の感想を書いてきたこのブログではありましたが、実のところ、本作の感想記事はやらなくていいだろうと思っていました。

というのも、3期の記事を書き始めたのはブシロードが変な売り方をしてきた*10からで、そこで受け止めた感情をTwitterで吐き出せないのは流石に拷問すぎるということでこのブログをその捌け口にしたという経緯があり、ぽっぴん’どりーむ!は単純に劇場版という媒体からいわゆるネタバレが憚られるというものでした。

その過去を思えば、このIt's MyGO!!!!!はAbemaの全国同時配信が最速という極めて良心的で平等な視聴形態を取ってくれたと思います。その甲斐もあってか、そして作品自体の高クオリティもあってか、配信当日のTwitterは観測する限り大盛り上がりとなっており、ならこんな長文クソブログ必要ねぇわと高を括って、のんびり実況だけして楽しんでいようかなと思っていました。なのに、そのTwitterが壊れました

イーロン・マスクは「これは一時的な措置だ」などと己さえ誤魔化せないチープな理論武装を行っていますが、現状Twitterは完全にぶっ壊れており、その余波で応急的にMisskey.ioのアカウントを取ったりもしましたが、Twitterからの大量流入でサーバーの増強が追いつかないなど、他のサービスにも混乱が広がっています。未だ移住先を模索せねばならない始末で、たったひとつのアカウントじゃ表せないように幾つもの僕を持っているけど、どこにもいない、そんな気持ちでいます。……えっ、Instagram? Facebook? 華やぎに馴染めないこの心を無視して、輝かしいSNSを推奨しないでくれ

Twitterを完全に代替できるサービスが登場していない限り、おそらくこの混乱は今後も断続的に続くのだと思われます。でも、It's MyGO!!!!!を観て湧き上がった感情を、心の中で叫んだって反響するだけだけど叫べないことは、もっと苦しくて、こうしてブログの形でも声にすることにしました。というわけで、第4話以降もこうして感想記事を書いていこうと思います。楽奈なんか何も語れていないですし。

 

最後に、この記事を書いている最中に読んだインタビュー*11にて、BanG Dream!プロジェクトの総合プロデューサーである根本雄貴氏より、It's MyGO!!!!!のキーワードは「共感」であると語られ、大変腑に落ちました。それはこの作品が共感を呼ぶ作りになっていることもそうなのですが、これまでのバンドリを受け継ぎつつ新しいものでもあるからです。

Poppin'Partyを中心として、その目指すところはこれまで「一体感」でした。キラキラドキドキ、星の鼓動、CiRCLING……それを音楽や物語で紡ぎ上げ、満員御礼の武道館でみんなで「ポピパ、ピポパ、ポピパパピポパ~!」と叫ぶなど、誰もがポピパの一員になることで大きくなっていったコンテンツです。他方、華やぎに馴染めない高松燈は、その一体感を共有できる人物ではありません。ただ、一体にはなれなくても同じにはなれるという点で、「共感」というテーマはバンドリ性と反バンドリ性が混在した太極図をこれ以上なく体現した概念になっていると思います。

*1:Poppin'PartyのSTARに関してはストーリー原案の中村航先生によれば全くの偶然とのことですが、MyGO!!!!!のSTARTに関してはシリーズ構成の綾奈ゆにこ先生より、意図して盛り込んだと断言されています。https://www.youtube.com/watch?v=L_dn6g1ly-A#t=71m10s

*2:なお、このカウントダウンの終了が前述のMyGO!!!!!4thライブの翌日正午ではありました。

*3:Ave Mujicaに変えられていく少女達の様子はYoutubeのボイスドラマにて描かれています。

*4:数年程度同じ年を繰り返して、頃合いを見て進級するシステム。

*5:3話でそよがパスパレ3章楽曲のTITLE IDOLを歌っていることから、CRYCHICの前日譚もガルパのシーズン2(戸山香澄世代の2年生編)において後期の出来事と見るべきです。

*6:Lyrical Lily「人間合格!!!!」

*7:実を言うと牛込りみが姉を追って留学しようとしている話がガルパで展開されており、この点愛音と絡みそうなところです。

*8:https://www.youtube.com/watch?v=VLxM8q6PF4I

*9:残念ながらこちらは0thライブで披露されたのみで音楽配信も動画も今現在存在しません。もどかしい!

*10:地上波での放送に先駆けてBD付CDの購入が最速視聴できるという形態でした。

*11:日経エンタテインメント2023年8月号