矛盾ケヴァット

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MyGO!!!!!記事番外編:焚音打の歌詞に見る「そよ風」の吹く方向

アニメも毎回盛り上がっているところですが、リアルバンドの方のMyGO!!!!!も5thライブ「迷うことに迷わない」が間近に迫ってきました。僕自身はリアルタイム配信で視聴しようと思いますが、アニメの方がバンド結成前からこんなボロボロな中で、果たしてリアルバンドがどういうパフォーマンスを見せてくれるのか、色々な意味で楽しみが増してきています。あ、いや勿論普通に盛り上がるとは思ってるんですけど。

さて、今回の記事はどーせ9話の感想記事が5thライブ前に上げられないのと5thライブに脳を焼かれて9話の記事が上がるのが絶対に遅れるのが分かり切っているのと、あとは何より最新シングルに収録の焚音打があまりに歌詞考察のしがいのありすぎる楽曲だったため、9話の記事が遅れる穴埋めも兼ねて更新したものになります。まあでも結構核心突いたこと言ってると思うんで軽い気持ちで読んでみて下さいな。いつもと違ってそんなに字数ないからさ。

 

ダンゴムシの殻が妨げる上昇

まず焚音打の歌詞で目を引くのは、各メンバーの名前が巧妙に盛り込まれていること。「この音色でしかたきつけられない」「宿すうたをともりびに」「ほらあなのライブハウスに」「そよぐはずのない風に」「Yet still tomorrow is unknown.」。

何か99 ILLUSIONみたいなことやってるのでやっぱりMyGOはバンドリよりスタァライトの方が近いんじゃないかと思ってしまうところですが、特にほらあなのライブハウスは目からウロコの歌詞でした。実を言うと「穴」はAve Mujicaがアニメの前に展開していたLINEアカウントMujina Carnivalとも関連する重要ワード。その深淵に吸い込まれたオタクたちが同じ穴のMujinaとなって、時折出される謎解きCarnivalを繰り広げるというよく分かんない企画になっていました。そしてAve Mujicaの存在を抜きにしても、3話の燈はその洞穴の奥から眩しい景色を見上げる様子をノートにしたためてもいました。

とはいえ、MyGOにおいてライブハウスと言えば、池袋のだだっ広い敷地に堂々と店を構える、あの華々しいRiNGのはず。「洞穴のライブハウス」とは程遠いイメージのように感じられるところですし、字義通り捉えるならば銀河青果店の地下にオープンしているGalaxyの方がよっぽど相応しくも思えます。ただ、3話の高松燈がそうであったように、洞穴とは世界と馴染めずにいる少女にとっての逃げ場所8話の記事でも考察しましたが、お母さんの温かいご飯よりもパフェの食い逃げを選んでいるのは、決して猫舌だからというだけではなく、母とは距離を置きたい、逃げたいという気持ちがあることが伺えます。であれば、要楽奈にとってはRiNG自体がダンゴムシの殻と言えます。明日放映の9話でこの辺が明らかになるといいなあと思います。楽しみ~。

さて、ダンゴムシの殻と言えば、透明な傘。これまた自前の記事を参照して恐縮なのですが、4話の記事で、OP「壱雫空」の際にメンバー各々が空へと掲げる傘はあの日嫌いになった雨から目を背けずに上を向くための殻だという説を提唱しました。今はまだOPに雨は降っていませんが、いずれこの映像にも壱雫空が降り注いで来ると思われます。その時に雨とまっすぐ向き合うために、この透明な傘が絶対に必要になるはずです。

しかし一つ問題が生じます。焚音打(たねび)と絶対に関連するはずの楽曲として、MyGO!!!!!には既に無路矢(のろし)が存在しています。この無路矢と、透明な傘の相性が最悪なのです。傘があっては狼煙は空へと登っていけないので……。

 

傘と煙を吹き上げる風

そよぐはずない風に

吹かれてる箱の中 自由に飛べるだろう

ところで焚音打のこの歌詞は大変にロマンチックです。箱とは言わずもがな洞穴のライブハウスの中のこと。ほぼ密閉された、逃げ続けたはずの袋小路で、何故か風が吹いて空を飛べるというのです。そして「そよ風」と表現されていることからも、その風を吹かせてくれるのは、おそらく長崎そよになるのでしょう。

ちなみに類似の表現は、今ではもうBanG Dream!の看板を下ろしたながらも同じく青いバンドを主人公としたfrom Argonavisからも感じられます。5人全員が何かの終わりを経験したところから始まるアルゴナビスのデビュー曲は、デビュー曲にもかかわらずその曲名はゴールライン。しかし、ゴールラインに達したはずの彼らに風はまだ強く吹いている。そう力強く語る歌詞になっており、かつて傷を負った5人がアルゴ船になぞらえて名付けたバンドを組み上げて再び出航して行きます。傷だらけの5人が集ってそれでもSteady Goesしていく青いバンドとして、少なからずシンパシーを覚えるものがありますね。

とは言うものの、アルゴナビスが大海原へと出航できたのは、そのバンドとしての姿が向かい風でも前進できる帆船だからでした。一方のMyGO!!!!!が掲げているのはマストではなく傘であるため、長崎そよという名の向かい風が吹けばたちまちの内に吹き飛ばされます。CRYCHICの再結成を目論む後ろへ吹く風は、燈の雨へのトラウマと相まって、その歩みを止める暴風雨に成り果てています。

今後そよがどういう過程を辿って燈たち4人に心を開いていくのかは未だに定かでないのですが、その顛末がどうなるのかは焚音打の歌詞が高らかに歌い上げています。このパンクロックの中で同じ熱になれるいまがすべて、と。なるほど、音も熱も同じ振動という点で共通していますし、そして熱ならば風を生み出せます。前に? 後ろに? いいえ、どちらでもなく、下から上に向かう上昇気流を。そして上昇気流が吹いているならば、傘はマストの役目を果たして上空に前進できるのです。その熱が音楽によって絶やされないのであれば尚更に。そして上へ上へと吹きすさぶその風を生み出すのは、やはりそよ風を意味する長崎そよになるでしょう。この考えならば、無路矢との相性の悪さは一瞬で解決します。傘はもはや煙が立ちのぼるのを阻む天井にはなりませんし、もっと言えば煙と一緒に空へと登っていくものになるからです。

 

その傘花が嚆矢になる

とはいえ、炎が生んだ上昇気流で人が空へと登っていくというのはちょっとブレスオブザワイルドのやりすぎかもしれません。そもそも、これまでの記事で考察してきたように、高松燈を初めとしたMyGO!!!!!の進み方は殻回って転がりながら大きくなる雪だるま式のダンゴムシのはず。傘で風を受けて空を飛んでいくのは、文字通り飛躍した姿と言うしかないでしょう。

この雨が上がってく時 なにもなかったように

消えてく傘花みたいに心は 上手に折り畳めないから

過ぎ去ってしまう瞬間を 僕はあつめたいよ ああ ひとしずく

答えは傘を殻にしていた壱雫空の歌詞にありました。答えは単純、傘を掴んで人が飛んでいくという物理法則を無視した現象なんて起こさず、雨が上がったら傘を手放せばいい。そよ風が起こす上昇気流が、その傘を上へ上へと押し上げてくれるはずです。OPの傘はそれぞれメンバーカラーの5色ありますし、とてもカラフルに空を彩る景色になってくれるはずです。あ、下の画像は本作とは関係ありません

春風が吹いた放課後の教室の隅、ノートに書いた燈のもどかしい迷いは、今や音となり、熱となり、自分の声で叫べるものへと変わりました。ジリジリ焦げる紙を擦る熱が、狼煙になる「ここにいる」と空へ高く登っていく。無路矢の歌詞は、音という熱の中でなら、信号(ことば)をノートから果てのない空虚へと飛ばしていけること、そしてそれが嚆矢になっていたことを、高松燈らしい独特の表現で語ってきます。今ならばもう、その嚆矢の向かう先は煙の立ちのぼっていく真上だと分かります。そして傘はダンゴムシの殻であり、燈が1人篭っていたノートでもあります。雨上がりにその傘を、ずぶ濡れのノートを嚆矢に変えて上空へと飛ばしていくならば、雨から燈を守ってくれていた傘地=ノートは先端の「矢尻」に当たります。かつてにんげんっていいなと羨みながらも進めなかったダンゴムシお尻を出した子一等賞を手にするための手段は、その恥部であるノートをプリンと曝け出して叫びに変えることです。

そのきっかけを最初にくれたのは豊川祥子でした。音一会の歌詞では震えるいびつな文字に羽をくれたと祥子への感謝の言葉が語られるものの、傷だらけで転がりながら進むダンゴムシに羽は不要なものでした。己の殻にその言の葉を乗せて飛ばすにしても、上昇気流を受けるのは傘そのものなので、やはり羽は必要なかったように思えます。しかし、嚆矢であれば「矢羽」がなければ不安定になります。焚音打で「自由に飛べるだろう」と歌われているように、その言葉が嚆矢となって、空へ昇っていく煙がまっすぐ自在に飛んでいくためには、祥子の授けてくれた羽はさり気ないながらもやはり必要なものでした。その小さく頼りない羽は、燈が手に持っていた、まだ体温の残る取っ手にしっかりと生えています。

 

最後になりますが、周知のようにMyGO!!!!!というバンド名にはエクスクラメーションマークが5つ存在します。その「!」ひとつひとつがMyGO!!!!!メンバーを指すものであることはこれまでも感じていたのですが、ここまで考察したならばそのに意味を感じられるようになってきます。小さな種火からモクモクと空へ、しかし矢のようにまっすぐ登っていく狼煙。そして今ならば、このエクスクラメーションマークの上端に、上空へと舞い上がる5つの傘花の姿を感じられるようにもなってきました。

MyGO!!!!!のバンドロゴマークには更にMの部分に傷つきながら転がり続けるダンゴムシの存在が見て取れます。そのダンゴムシGone、傘花が去っていくことを受け入れる様子までが、その単純な意匠の中に盛り込まれています。